読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

電通とその幹部一名が書類送検 新入女子社員自殺で 労働慣行はこれからどうなる?

ビジネス 社会・文化 全記事一覧

f:id:minamiblog:20161228162139j:plain

(写真は新橋駅。出所はWIKIパブリックドメイン画像。※電通本社は東新橋にある)

  電通の女子新入社員(高橋まつりさん)の過労自殺を巡り、厚生労働省東京労働局は、労基法違法の長時間労働をさせた疑いで、電通(法人)と上司にあたる幹部1名の書類送検を行いました。書類送検された幹部は、労使協定の上限超の残業をさせたことと、労働時間の過少申告が疑われています。

(社員の勤務時間が上限を超えないように過少申告されたことや、他にも勤務時間が会社での滞在時間より少ない社員が見られたことから、電通は違法な長時間労働を隠そうとしたのではないかと東京労働局に疑われている。『週刊現代2016/11/26:P64~65』は、これは厚労省総出の取締りであり、過去にABCマートやドンキホーテを捜査した過重労働撲滅特別対策班=通称「かとく」が動いているとも指摘していた)

 高橋さんが自殺したのは2015年12月25日なので、ほぼ1年後に上司にあたる幹部と電通が書類送検されたことになります。電通は長時間労働に関して労働基準法違反の常態化が疑われ、この自殺が16年9月に労災認定された後、10月には立入調査(東京本社、支社、子会社)が行われ、11月には家宅捜査(本社と3支社)が行われました。

 上層部の関与の有無などをめぐって年明けにも捜査が続くとも報じられています。

 この事件は15年末以降のニュースとなり、日本社会の雇用のあり方に波紋を投げかけましたが、この問題をどう考えるべきなのでしょうか。

電通社長が28日に記者会見。17年1月に辞任の意を表明。

 12月28日19時に電通の石井直社長は記者会見を行い、このたびの事件の責任を取り、来年1月の辞任することを発表しました。取締役会で執行役員の処分も行われることが明らかにされています。

 毎日新聞でその要旨が出ています(電通社長辞任「ご遺族と社会のみなさまに謝罪」会見要旨 12月28日)。

「当社は人が財産、社員の働きが財産の企業です。ひとりひとりが当社の成長の原動力です。しかしそのことがともすれば業務の効率を高めるため、際限なく働く、そういう働き方を是とする風土、労働環境がありました。しかし人の時間は無限ではありません。われわれ電通は深い反省とともに、働き方すべてを見直したい」

「内部調査の結果も反映させ、実効性については外部のモニタリング制を導入したいと考えています」

  今後、電通の「働き方」が変わるのかどうかが注目されていますが、この事件を重く見た厚生労働省は、12月26日に、社員に違法な長時間労働を強いている企業の社名公表を拡大するK方針を明らかにしています。これまでは「月100時間超」で社名公表でしたが、今後は「月80時間超」になります。幾つかの事業所で過労による自殺や労災死が出た企業も社名が公表されるのです(当然、是正指導や立入調査も強化の方針)。

※なお、1月17日には16年9月に発覚したネット広告の不正請求をめぐる社内調査の結果、不適切業務は997件で計1億1482万円にのぼることが明らかになっています(広告未掲載の架空請求分は40件で計338万円)。電通はこれだけの不祥事が起きても株価は意外と堅調です。

【電通の株価推移】

 4975円(12/8)⇒5790円(12/19)⇒5540円(1/4)⇒5350円(1/19)⇒6180(3//7)

退職しにくい日本社会 労災で辞めても転職面接で説明困難?

 この事件に関しては、電通がブラック企業だからだ。「鬼十則」がいけないんだ(※電通社員手帳では削除されるらしい)。企業文化がおかしい・・・などと、人によって見方は分かれます。

(「仕事は自ら『創る』べきで、与えられるべきでない」に始まる鬼十則は創造的な仕事をする指針として実業界で評価されてきましたが、その中の「5則:取り組んだら『放すな』殺されても放すな、目的完遂までは」というフレーズが今回の事例では注目されました。これは元来、戦後日本のビジネスマンの心意気を謳った標語であり、労基法違反を勧めるのは本来の主旨とは違います)

「そもそも休職や転職はできなかったのか」という疑問も頭に浮かびますが、日本社会では、大卒の場合は新卒で仕事が決まらないとあとで仕事を見つけにくくなりますし、新卒ですぐに辞めた人はこらえ性のない人と見られがちです。

 高橋さんが電通を退職したら、次の就職面接に行った時に「新卒で大手に就職したのに途中でやめた脱落者ではないか」という色眼鏡で見られる可能性が高く、退職の経緯をあれこれ話しても、面接官に信用される保証はありません。「言い訳をして上司のせいにしている」等と邪推されかねないところがあります。

 そのため、筆者には、このやめにくい雇用慣行というものも、自殺の遠因になったような気がしてなりません。

「自殺するぐらいならやめれば」と言っても、現実には、日本社会では会社をやめた後が面倒だからこそ、多くの会社員が嫌でも長時間労働に耐えています。

中高年層が労災的な長時間労働を強いられたら、どうすればいいのか?

 選択肢がなければ、嫌な長時間労働でも耐え忍ぶ以外にありません。

 若い人の場合はまだ転職のチャンスが多いわけですが、よくよく考えてみると、中高年層で労災的な長時間労働を強いられている方のほうが悲惨です。40歳をすぎると、転職者として受け入れてもらえなくなるケースが多いからです。

 この場合に抜け道を探してみると、残された選択肢は個人で何か生計を立てる手段を手にするしかないのかもしれません。

 昨今、政府では働き方改革の一環として「副業解禁」の議論を進めていますが、日本企業はずっと副業に否定的です。

(※8割は副業に否定的:毎日夕刊11/25「続報真相 今なぜ「副業解禁」か 大手企業にも容認の動き」)

そもそも副業は禁止されるべきか。憲法では「職業選択の自由」を認めており、基本的に理由なく禁じられないとの見方が一般的だ。だが、多くの企業は社員の副業を好ましく思わない。「本業がおろそかになる」「情報が漏えいする」「優秀な社員が逃げてしまう」--などの懸念があるからだ。そこで多くは社員との労働契約である「就業規則」で禁止している。中小企業庁の2014年度の調査(大手~中小の4513社対象、回収率26%)では「兼業・副業」を「推進している」とした企業はゼロで、「容認」はわずか14・7%。残りの85・3%が「不可」と答えた。

 副業で生計が立つ年収を得るのはかなり難しいのですが(食いつなげるなら主業に近い)、「もうこの会社では限界だ。だが、次の雇用先もない」というのなら、頑張って副業の主業化にチャレンジするのも一計なのかもしれません。

 副業で予想外の成功を収め、個人事業主になれた人もいるのは事実だからです。

 電通の例は悲惨ですが、もし、会社をやめても生きていく手段があれば、自殺するところまでは追い詰められずに済みます。

 2017年に入り、政府の「働き方」改革に関連した有識者会議からは「自由な働きを公正に評価」「年功・長時間の悪弊を断て」「ひとつの会社に縛られない」等を含む5つの提言が出されています。

 人によって置かれた環境は違うので、必ずしも「副業」が答えになるとは限りませんが、今後、昔ながらの会社勤めオンリーの労働慣行は変わっていくのではないでしょうか。

※ランサーズ「フリーランス実態調査」(2016年のデータ)によれば、本業と別に副業を持つ人は416万人、独立した個人の自由業は69万人、複数企業の仕事に従事する人は269万人、自営業者・個人事業主は310万人。この四種の累計は1064万人(日経朝刊1面:2016/10/31)