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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

佐川急便配達員の荷物叩きつけ動画を見て、配送所バイトを思い出してしまった・・・

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(台車:出所はWIKIメディアコモンズのパブリックドメイン画像)

  26日にBuzzFeed Newsが公開した記事が話題を呼んでいます。記者が12月6日付のYouTube上で運送会社の配達員が荷物を乱暴に扱っている動画を発見し、問い合わせたところ、佐川急便はこの人物が自社の社員であることを認めたのです(※動画では荷物が放り投げられたりしている)。

 今回は、この記事を紹介しつつ、筆者が佐川急便の配送所でアルバイトをした体験から思い浮かぶことを書いてみます。

各紙で拡散されたBuzzFeed Newsの佐川急便報道記事

 BuzzFeed Newsの元記事は「佐川急便が配達員の荷物叩きつけ認める 「弊社の従業員で間違いありません」2016/12/26、瀬谷健介氏執筆)で、1分35分の該当動画も一緒に埋め込まれています。

 動画は縦に細長く、高いアングルから撮影され、右側には団地らしきアパートの上方階が映っているので、これはアパート上方の住人が窓辺で配達員の動作を目撃し、「何だこれは」と驚いて撮影した画像と思われます。

 台車や荷物が放り投げられ、荷物が蹴られたりと、仕事のストレスの憂さ晴らしと見られる動作の一部始終が記録されているのです。

 これに関してBuzzFeed Newsが佐川急便に電話で問合わせたところ、広報担当者が「弊社の従業員なのは、間違いありません。配達中のできごとです」と答え、佐川急便は受取人がわかり次第、直接謝罪に出向くことを伝えてきたと報じられています。

佐川急便はハードワーキング+高収入?

 佐川急便にはハードワーキングな会社というイメージがあります。

 例えば、ワタミ株式会社の創業者で元会長の渡邉美樹氏(現参議院議員・自民党)も、若いころに一時期、佐川急便でドライバーをし、起業のための資金を稼いでいます。ハードワーキングながらもお金はたまった・・・という話が著書の中では書かれているわけです。

 ネット記事で見ると以下の記述が見つかります(出所:ワタミ株式会社 渡邉 美樹 |ニッポンの社長 |

 佐川急便の仕事は、月収43万円という高給だったが、その労働環境は過酷なものだった。一日の労働時間は20時間近く。さらに大卒の渡邉に対する風当たりも強く、先輩SD(※セールスドライバー)からのイジメが絶えなかった。そんな状況下でも渡邉が決して逃げ出さなかったのは、「お金を貯めて会社を創る」という夢があったから。渡邉は1年間で、300万円という資本金を貯め、佐川急便を後にした。

 労働基本法があるため、毎日20時間働いていたとは思えませんが、厳しいドライバーの仕事をこなしながら、1年で300万円貯めたようです。月収43万円ですから、12倍すると年収516万円になります。20代前半で転職し、1年目で年収500万円台。これでボーナスが出たら、起業資金がたまりそうです。

ハードワーキングの一部だけは断片的に経験したが・・・

 筆者は2000年代前半のとある冬に神奈川県の佐川急便の配送所でアルバイトをしていました。高収入なしでハードワーキングの一部だけを経験した覚えがあります。ずいぶん時間が経ったので、いまはだいぶ変わっているのかもしれませんが、筆者が見た光景は以下のようなものです。

 夜勤だったので、21時前に詰め所に出かけ、そこでタバコを吸ったり腹ごしらえしたりしている若者数名と配送所に移動します。

 寒い仕事場では段ボールがどんどん流れてきます。配送所の真ん中に大きなコンベアがあり、そこから枝分かれした滑車上のライン(※正式な呼び名不明)を通して左右に停車する10数台ぐらいのトラックに向けて荷物を引くつくりになっていました。

 時間によって流れてくる量は違いますが、多い時には荷物を引いても引いても押し寄せてくるので、奥のほうに取りそびれた荷物が流れていってしまいます。「早く取れ」等と怒鳴られたりするわけです。

 当時はユニクロの荷物が多く、20~30個ぐらい連続で1m数十センチのでかい段ボールを急いで取り、滑車を通じてトラックに流さなければなりませんでした。

 重い家具が流れてくるので、ふうふう言いながら積まなければならないこともしばしばです。いちばん大変なのは、工業用の資材で使われる長い鉄板が連続で流れてきた時でした。

 でかいものだけが大変なのかというと、意外と小物も大変です。

 よくあったのは袋詰めのカタログ冊子が大量に流れてくるというケースです。数十~百ぐらいの数で押し寄せてくるので、これをさばくのは骨が折れました。

 おまけにクール宅急便の作業があり、真冬でも冷蔵庫の中で荷物を運ばなければいけないのです。

 2000年代の初め頃、筆者がバイトでもらったのは21時~7時で9000円でした。苦労に見合わないと思い、10日程度でやめた記憶があります。

 その頃、佐川ドライバーが顧客の家に届ける現場作業までは同行していないのですが、別の運送会社でドライバーと一緒に家具を運ぶ作業をやったことはあります。

 大塚家具の大きな商品を顧客の前で運ぶので、体力が要るだけでなく、神経を使う仕事でした。壊したりぞんざいな動作がないようしなければいけないからです。

 ドライバーは苦労して荷物を積み、お客様まで責任をもって届けなければいけないので、一年目でも月収43万円ぐらいないと割が合わないでしょう。

※1/6追記:ヤマトがアマゾン宅配で苦戦したりと運送会社がてんてこ舞いの様相を体している中、ユニクロがネット通販を開始し、年内にも首都圏翌日配送を行うことを発表した。アマゾンや通販サイトの「ゾゾタウン」等に対抗し、電子商取引の売上比率を5%から30%まで引き上げる方針だという(産経1面:2017/1/6)。

荷物叩きつけはありえないが、ドライバーの仕事は大変

 佐川急便のドライバーにもいろいろな人がいるので、今回の荷物叩きつけ配達員のような人はレアなケースなのではないかと思います。

 現場では急ぎ仕事でトラックに荷物を詰めるため、ドライバーがやや手荒に荷物を扱ったりしたのを見たことはありますが、その中では、今回の動画のように、故意に荷物にやつあたりした行為はありませんでした。

(筆者が見たのは、作業場で次から次へと段ボールが流れてくるため、作業が心ならずも手荒になったという例です)。

 企業や組織は大きくなると、一定の割合で赤線を越えてしまう事例が出てきます。

 従業員の犯罪を例に考えた場合、日本国民の犯罪率が一定でも大企業の場合は分母が大きいので、分母を分子で割った時に中小企業よりも問題の発生件数が大きくなるわけです。

 松下幸之助氏にも、松下電器で社員の不祥事が発生して悩み、一定の規模をこえたら、国民の犯罪率と同じぐらいの割合で不祥事が起きうると腹を括ったと述べています。当時の日本では50人に1人の割合で罪人がいたので、社員の中で100人のうちの1人、200人のうちの1人ぐらいの不正を働く者が出たとしても、それに堪えなければいけないと考えたのです(松下幸之助著『決断の経営』P174~175)。

 このたびの件や25人の略式起訴に終わった12月下旬の駐車違反身代わり事件は残念な事例ですが、佐川急便では、最近、こんな美談もありました。

 御存じの方もいるかとは思いますが、産経ニュースの記事(「屈強な「佐川男子」、暴力団員すら圧倒 世にも奇妙な恐喝未遂事件の一部始終」2016.11.15)が面白かったので、紹介しておきます。

 事件の発端は6月12日にさかのぼる。組員の男A(35)がインターネットで高級腕時計のロレックス(約86万円)を代金引換で注文したのだった。

 単純に時計が欲しかったわけではない。「脅し取ると犯罪だが、一芝居打って商品を置いていかせよう。モデルガンをちらつかせれば、ビビって置いていくはず」。“シナリオ”を練った組員は、同じ組の男B(32)を引き込んだ。

 翌日、佐川急便の男性配達員(38)ら2人が東京都荒川区町屋の組事務所に荷物を届けに訪れた。

 差し出された宅配物を勝手に開ける組員B。そこに罵声を浴びせながら、組員Aが登場しモデルガンを突きつけた。

 騒然とする室内。組員Bは配達員に向かって「こんな状況では帰れ」と言い放った。

 目の前で突然、やくざ同士の内輪もめがはじまったなら、素人は逃げる-。そういう想定だった。

 その「佐川男子」の2人は肝っ玉が据わっていた。とっさに商品を取り返し、「逃げる途中に背中から打たれてはかなわない」と、モデルガンも取り上げて事務所から出て、走りながら110番通報した。

 その後、この二名の組員は逮捕されました。

 佐川急便側は、配送先や荷物情報から危機を察知し、あらかじめ選りすぐりのメンバーで対処していたとも報じられています。

 運送会社はこんな危機管理まで必要になるので、大変な仕事です。

 今回の該当動画の日時は12月6日午前11時50分と報じられているので、クリスマスシーズンが近づき、だんだんと忙しくなる頃合いかと思います。これは、負荷に堪えられなくなって限界を超えてしまった事例なのかもしれません。

 年末にも荷物量増加による宅配遅延が起きていることが佐川急便のHP記事にも掲示されています(12/29時点で遅延が発生したのは以下の地域。原因は佐川の人員不足やネットショップの普及などで年末に荷物が集中したこと等が推測されている)。

  • 埼玉県:志木市
  • 東京都:東久留米市
  • 愛知県:名古屋市、小牧市、長久手市
  • 三重県:四日市市、桑名市、鈴鹿市、三重郡
  • 福岡県:太宰府市、春日市

 2017年1月の年明け記事を見ても、運送会社が大忙しだと各紙で報道されています。筆者も職場で疲れ果てた配達員から荷物を受けとることが増えてきました。

いろいろな報道や前述の動画を見て、筆者は過去の配送所のバイト経験を思い出してしまいました。ついつい忘れがちになりますが、荷物が時間通り手元に届くというのは、大変なことだと思います。

追記:ヤマト運輸も宅配便の荷受量抑制か。昼指定廃止へ

 2月22日には「ヤマト運輸の労働組合が2017年の春季労使交渉で初めて宅配便の荷受量の抑制を求めた」ことが判明。会社側も要求に応じる意向であることが報じられました(17年3月期の宅配便取扱個数は18億5000個で前期比7%増。日経朝刊1面:2月22日付)。

 28日には、宅配便の昼時間帯(12時~14時)を指定するサービスの廃止を検討していると各紙で報じられました。人手不足や配達員の負担緩和のための措置で、20時~21時の時間帯指定も見直す案も出ているようです。

 最近、へろへろになって荷物を運んでくるヤマトドライバーの姿を見かけますが、今後、労組と会社とのやり取り次第で、ドライバーの負荷も変わっていくことになりそうです。