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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

安倍首相ハワイ訪問 オバマ氏との首脳会談の目的は慰霊?同盟強化?

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(ホノルル国際空港。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  安倍首相は26日夜にハワイに向けて出発します。時差があるので、各紙記事が読みにくいのですが、その日程は以下の通りです。

  • 27日未明(現地時間では26日午前)に日米戦死者の慰霊
  • 28日午前(現地時間では27日昼)にオバマ大統領と最後の首脳会談

 オバマ大統領が2016年に広島を訪問したので、このたびは安倍首相もハワイで慰霊を行うことになりました。この訪問には、真珠湾攻撃に始まる日米戦争を越えて、両者が今、同盟関係を強化しているのだと世界に訴えかける狙いがあります。

 同盟見直しを主張したトランプ氏へのメッセージとも見られていますが、同氏はTPP脱退発言のように、唐突にゴーイングマイウェイで独自の見解を明らかにするので、筆者は、これに関しては、あまり効果は見込めないのではないかと考えています(※ただ、トランプ氏の側近を固める安保関係者は同盟維持論者が多いので、17年前半に日米同盟が突然消滅したりはしないと思います)。

 今回はこの訪問の背景などについて考えてみます。

四年間の日米同盟強化の集大成? オバマ広島訪問の返礼?

 まず、時事通信の記事(「揺るぎない同盟、真珠湾で発信=トランプ氏へ「針路」-首相、27日米ハワイ慰霊」12/26)を見てみましょう。

 ホノルルには現地時間26日午前(同27日未明)に入り、真珠湾攻撃で犠牲となった米兵の墓地や日本人戦死者の慰霊碑などで献花を行う。27日午前(同28日朝)にオバマ氏と首脳会談を行った後、真珠湾攻撃で沈没した戦艦アリゾナの上に建つ追悼施設「アリゾナ記念館」をそろって訪問。献花と黙とうに続き、両首脳が演説する。 

 日米両首脳が一緒に真珠湾で慰霊するのは初めて。5月の両首脳による被爆地・広島への訪問と併せ、和解を象徴する歴史的な節目となる。

  ハワイ訪問には岸田外相や稲田防衛相も同行し、2001年の日本船(えひめ丸)と米原潜の衝突事故の犠牲者の慰霊碑訪問や日系人夕食会なども行われる予定です。

 これに先立って、安倍首相は12月5日夜に今回の訪問の意義を明らかにしています(時事通信「安倍首相発言全文=米真珠湾訪問」12/5)。

「オバマ大統領の広島訪問に際し、核なき世界に向けた大統領のメッセージは今も多くの日本人の胸に刻まれている」

「これまでの集大成となる最後の首脳会談となる」「犠牲者の慰霊のための訪問だ。二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。未来に向けた決意を示したい」

「同時に、日米の和解の価値を発信する機会にもしたい。今や日米同盟は、世界の中の日米同盟として、ともに力を合わせて世界のさまざまな課題に取り組む希望の同盟となった。その価値、意義は、過去も現在も未来も変わらない。このことを確認する意義ある会談となる」

  4年間の日米同盟強化の試みの集大成として、安倍首相はこのハワイ訪問を非常に重視しています。つまり、安倍首相訪米時の議会演説(「希望の同盟」)、日米ガイドラインの改定、安倍談話、集団的自衛権の限定容認、安保法制などと続いてきた試みがここで完結するというわけです。

 経済面に関しては「トランプ次期米大統領がTPP離脱を表明していることから見通しは厳しいが、安倍首相はオバマ氏とTPPをまとめたことを評価し、日本は自由貿易の旗を振り続けていく意思を示すとみられる」とも報じられています(産経ニュース12/28付電子版)。

28日のオバマ大統領と安倍首相の慰霊、そして演説

 そして、日本時間で28日朝には、オバマ大統領と安倍首相の慰霊に関して、報道が流れ始めました。両首脳は真珠湾攻撃で沈んだ戦艦アリゾナの上に立つ「アリゾナ記念館」で献花し、その後、近くにある埠頭で並んで演説を行いました。

 安倍首相の演説が産経ニュース(「和解の力」 安倍晋三首相の真珠湾での演説(全文)12/28)で全文掲載されています(以下、抜粋)

「私は日本国総理大臣として、この地で命を落とした人々の御霊に、ここから始まった戦いが奪った、すべての勇者たちの命に、戦争の犠牲となった、数知れぬ、無辜(むこ)の民の魂に、永劫(えいごう)の、哀悼の誠を捧げます。

 戦争の惨禍は、二度と、繰り返してはならない。私たちは、そう誓いました。そして戦後、自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら、不戦の誓いを堅持してまいりました。

・・・

「戦い合った敵であっても、敬意を表する。憎しみ合った敵であっても、理解しようとする。そこにあるのは、アメリカ国民の、寛容の心です」

「戦争が終わり、日本が、見渡す限りの焼け野原、貧しさのどん底の中で苦しんでいたとき、食べるもの、着るものを惜しみなく送ってくれたのは、米国であり、アメリカ国民でありました」

「私が、ここパールハーバーで、オバマ大統領とともに、世界の人々に対して訴えたいもの。それは、この、和解の力です」「憎悪が憎悪を招く連鎖は、なくなろうとしない。寛容の心、和解の力を、世界はいま、いまこそ、必要としています」 

  謝罪という言葉を使わず、哀悼の意を表し、戦後に日本を助けたアメリカの寛容、復興の際に供与された援助への謝意を表明しています。

 戦後71年を経て日米同盟が堅固に発展し、世界にとっての「希望の同盟」になったことを力説しました。

 オバマ大統領はこれに応え、和解と価値の共有、同盟による戦争の抑止の意義などを語っています(以下、日経電子版「オバマ大統領「日米同盟かつてなく強固」 真珠湾で演説」12/28)

「戦果より和解にこそ価値がある。戦争の傷は友情に変わり、日米同盟はかつてなく強固になった」

「友として両国が一緒に世界に和解のメッセージを送りたい」と語った。

「日米が共通の利益だけでなく価値の共有によって築いた国際秩序によって新たな世界大戦を防いだ」

  この日に備えて力を入れたのか、安倍首相の演説の中身は格調の高い言葉でつづられています。ただ、筆者としては「『不戦の誓い』の理想は美しいが、実際に日本が攻撃を受けたら、戦わざるをえないのではないか?」という疑問が残りました。

 恐らく、集団的自衛権の解釈改憲を行った安倍首相の理屈は、国際法上、戦争は違法化されているのだが、日本が攻撃を受けたりした場合は自衛権を行使する。その際は日米連携する。これはいわゆる違法化された戦争とは違うのだ、ということなのでしょう。その論理で言えば「不戦の誓い」と「自衛権の行使」は矛盾しないことになります。

 ただ、こういうややこしい理屈が北朝鮮や中国に通じるのかどうかまでは分かりません。「そうか、戦わないんだな」と思い、野心ある国が誤解して限定的な地域紛争をしかけてこないとも限らないのが、国際政治の現状ではあるからです。 

オバマ氏のレガシーづくりに見えるのは気のせいか?

 しかし、性格の悪い筆者には、この訪問は「トランプVS中国」のバトル開始で存在感が消滅したオバマ氏のレガシーづくりを助ける試みに見えて仕方がありません。

 現実にはトランプ氏が核兵器更新を宣言したりと、オバマ大統領そっちのけで外交路線をぶちあげてきているので、オバマ氏は面目が立たない状況が続いているわけですが、ここで最後にオバマ氏を無視すると、思わぬシッペ返しをくらいかねないので、安倍首相が同士を盛り立てているように見えなくもありません。

 記者の方に「本当は、オバマ氏のレガシーづくりを助け、オバマ氏に『安らかに成仏してもらう』ための儀式なのではありませんか?」と訊いてほしいのですが、こういう発言はNGワードになってしまうのでしょう。

 会社でも社長引退前はみんな丁重に扱って、最後に暴発しないように心がけます。実権が残っている間は、関係者一同、トップに安らかに成仏してもらおうとしますが、これと同じことが国際政治で起きているような気がするーーというのが筆者の感想です。

※ハワイ訪問とプーチン訪日時の対露外交は矛盾があるような気がする・・・

 安倍首相は12月5日にハワイ訪問の意義を語ったが、よく考えてみると、これは12月中旬の日露首脳会談とは矛盾している。オバマ氏への義理立てするためには、日本は右手でロシアに経済制裁、左手では経済協力という二重人格的なアクションを取らざるをえないからだ。プーチン大統領は訪日前の読売新聞インタビューで「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどれぐらい実現できるのか見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか」と言っていたが、ロシア側には日本の意思決定力の欠如が印象づけられたのではないか・・・。

国際政治はオバマの理想主義からトランプの現実主義に移行?

 オバマ氏にも「米国の力の限界の範囲で行動する」という現実主義はありますが、同氏に色濃かったのは、核廃絶論などに見られる理想主義です。

 しかし、トランプ氏の外交・防衛政策のブレーン(ピーター・ナヴァロ氏等)からは「力による平和」という考え方が出てきています。これは、軍事力があってこそ、野心ある国は侵略を踏みとどまるのだ、というリアリズムを前提にしています。

「米国の強い核抑止力が核戦争を止める」という考え方から見れば「核兵器の近代化は当然必要だ。オバマ氏の核廃絶論などは空論にすぎない」という結論になります。これは、アイゼンハウアーからレーガン、ブッシュ(父)に至るまで、米国の外交・防衛政策の基軸となっていた考え方とも共通しています。

 トランプ氏の特徴は本音トークにありますが、「いい加減、そんな空理空論はやめて、現実の議論をしようぜ」というのがこれからの国際政治の基調になっていくのではないでしょうか。

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(炎上する戦艦ウェストバージニア。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

そもそも真珠湾攻撃とは? その概要

 蛇足かもしれませんが、一応、ここで真珠湾攻撃について振り返ってみます。

 日本海軍は1941年12月8日未明(現地時間:12月7日)に、ハワイ・オアフ島のパールハーバー(真珠湾)にあった米海軍太平洋艦隊基地に奇襲をしかけました。

 11月26日に千島列島から出発した「赤城」「加賀」「飛竜」「蒼竜」「翔鶴」「瑞鶴」の空母6隻を中心とした機動部隊(戦艦2隻,巡洋艦3隻,駆逐艦9隻,補給艦)は、9日の午前8時頃から 360機の戦闘機で米太平洋艦隊や航空基地等を攻撃したのです。

 太平洋最大の拠点である真珠湾基地は巨大な要塞砲が並び、上陸困難な難攻不落の基地と見られていたので、山本五十六海軍大将は一気に航空機からの攻撃で敵戦力の撲滅を企てます。

 海が浅い真珠湾で魚雷攻撃は困難と見られていましたが、日本軍は「月火水木金金金」(休みなし)と言われるほど猛烈な訓練を行い、空からの爆撃と雷撃の両者で真珠湾攻撃を成功させました。

 当時、軍からF・ルーズベルト大統領に日本軍の奇襲を警戒すべきだとの声は上がっていましたが、ルーズベルトはその声を無視してオアフ島に主力部隊を展開しています。日本軍は戦艦や空母、航空基地や敵飛行機を狙い、米軍に以下の損害を与えました(「大戦果」に沸き上がる国民:時事ドットコム)。

 日本海軍の真珠湾攻撃による米側の主な損害は、戦艦5隻が沈没、戦艦4隻、巡洋艦、駆逐艦各3隻が損傷、飛行場への攻撃で航空機188機が破壊され、戦死・行方不明者も2300人を超えた。日本国内では12月8日早朝に米英と戦争状態に入ったことが公表され、同日夜にはハワイ攻撃により(1)米軍の戦艦2隻撃沈、さらに戦艦2隻大破、巡洋艦約4隻大破(2)ホノルル沖で潜水艦が米空母撃沈との未確認情報あり-といった戦果も発表された。

 嶋田繁太郎海軍大臣は12月17日、議会で「米国太平洋艦隊主力の大部はその戦闘力を喪失した」と報告。新聞も「太平洋での米国の攻撃作戦能力は完全に喪失した」と書き立て、国民は戦勝気分に沸き立った。

 しかしながら、与えた損害は米国の工業力を持ってすれば数カ月で回復できる程度でしかなく、長い目で見れば太平洋での作戦能力に大きな影響はなかった。

  奇襲攻撃としては成功しましたが、空母を討ち漏らし、真珠湾基地の燃料タンクや造船、整備機能を破壊し切ることもできませんでした。

安倍首相は「騙し討ち」という批判にどう応える?

 今回、安倍首相のハワイ訪問で注目されるのは「スニークアタック(騙し討ち)だ」という批判や「リメンバー・パール・ハーバー」(真珠湾を忘れるな)という米国側の怨念の問題です。

 この宣戦布告の遅延問題の経緯は以下の通りです。

 当時、東郷茂徳外務大臣は対米宣戦布告は必要ないと考えていたのですが、12月1日の御前会議で昭和天皇から東条英機に開戦通告を行うことが命じられ、外務省は後追いで開戦通告の準備を始めます。

 当時、駐米大使の野村吉三郎氏は暗号化された電報を受けとっていたのですが、解読、文書作成、清書の完成を経てアメリカのコーデル・ハル国務長官に手渡されたのが現地時間の12月7日午後2時20分。これは真珠湾攻撃の1時間後だったわけです(担当者は来栖三郎特命全権大使と野村吉三郎大使)。

※外務省の調査記録では、6日の夜に大使館員が転勤者の送別会をしていたことや、作業担当者が送別会後に大使館に戻らず知人宅でトランプをしていたこと等があげられている。

 まさか安倍首相は、オバマ大統領のように「空から死が降ってきた」と言うわけにはいかないでしょう(以下、日経記事「8月6日の記憶 消えてはならない オバマ氏の演説全文」2016/5/27)

 71年前のよく晴れた雲のない朝、空から死が降ってきて世界は変わった。閃光(せんこう)と火の壁が町を破壊し、人類が自らを滅ぼす手段を手にしたことを示した。

 我々はなぜここ広島を訪れるのか。それほど遠くない過去に解き放たれた、恐ろしい力について思いを致すためだ。亡くなった10万人を超える日本の男性、女性、子供たち、数千人の朝鮮半島出身の人々、そして捕虜になった十数人の米国人を追悼するためだ。

  戦勝国史観を持つオバマ氏は、アメリカが落とした原爆に対して「空から死が降ってきた」等と、まるで隕石でも落ちてきたかのような言い方をしています。

 「過去に説き放たれた恐ろしい力」云々の発言もおかしく、大統領が恐るべき判断をして10万人の大量殺人を行ったというのが歴史の真実です。

 オバマ氏のこの発言の底意が疑わしいのは、戦後70周年のノルマンディー戦勝式典で原爆投下の映像が上映された時、同氏が拍手して喜んでいたことからも明らかです。

 筆者がいま一つ、この真珠湾訪問という「儀式」に胡散臭さを感じるのは、16年のオバマ氏の広島演説の冒頭発言が思い出されるからです。「この種の発言に対して、まともに取り合う必要があるのだろうか?」という素朴な疑問が脳裏からぬぐえません。

米国の中華民国支援やハルノートについて、どう考える?

 日本は騙し討ちをしたんだーーという歴史観がアメリカでは主流派ですが、実際の動きを見ると、日本と中国(中華民国)は1937年から戦いを繰り返しており、劣勢な中華民国をアメリカは支援しています。パイロットと戦闘機100機からなる軍事顧問団(フライングタイガース)を送り、中華民国軍の近代化を進めたので、事実上、戦争には片足を突っ込んでいます。

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(フライングタイガースのP40戦闘機。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 また、日米交渉の過程を無視して、ハルノートによる石油断絶を突きつけたことが開戦の引き金にもなっていました。

 無論、前述の開戦通告の遅れという外交上の問題はありましたが、米国側にも事実上の戦争介入とも言える中華民国支援の問題はあったわけです。

 歴史の大きな流れを見ると、結局、勃興した日本とアメリカの間で、太平洋の覇権戦争が起こることは避けがたかったのかもしれません。

 国際政治学者のミアシャイマー氏は、新興国の台頭が既存の大国との戦争につながりやすい(歴史事例で見ると確率は7割)とも述べています。

やはり、政治的なレトリックの応酬で終わらざるをえないのでは・・・

 筆者には、前掲のオバマ氏の発言が一種の美辞麗句に見えて仕方がなく、論語の「巧言令色、少なきかな仁」という言葉を思い出します。

 これに日本側が応えるとしたら、やはり、似たような美辞麗句をつくらざるをえなくなるような気がしてなりません。

 安倍首相は、支持基盤の保守勢力から「謝罪外交だ!」と批判されるわけにもいかない。また、「侵略戦争を反省していない!」という左派マスコミからの大きな批判も呼び込みたくない。そうした状況が続くため、結局、安倍談話と同じく、両者の主張をみながら、政治的に玉虫色の答えを出さざるを得なくなるわけです。

 政治の現実としては、あと1か月でいなくなる大統領に対して政治的レトリックの応酬を繰り返さざるをえないのかもしれませんが、その内容は歴史の真実の探求とはあまり関係のない話になりそうです。