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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

東京五輪 経費1.8兆円の内訳判明 都と各県での負担案に知事困惑

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(お台場の夜景。出所はWIKIメディアコモンズ。パブリックドメイン画像)

  東京オリンピックとパラリンピックが1.6~1.8兆円規模で開催されることが固まり、その経費の内訳が明らかになりました。

 22日の各紙朝刊では経費内訳が報じられています(引用は時事通信記事「東京五輪、公費投入1兆円超=開催費総額1.6兆~1.8兆円-分担協議難航も」)

2020年東京五輪・パラリンピックの開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者による第2回トップ級会合が21日、東京都内で開かれ、組織委は大会経費の総額が1兆6000億円から1兆8000億円になるとの予算を示した。組織委が5000億円、都や政府、他の自治体が残りの1兆1000億~1兆3000億円を負担する枠組みとした。

 今回は、この五輪経費の問題について考えてみます。

東京オリンピック・パラリンピックの開催経費の内訳は?

 前掲記事で見ると、五輪とパラリンピックの開催経費の内訳は以下の通りです。

★ハード(会場関係)

・恒久施設:3500億円
・仮設など:2800億円
・エネルギーインフラ:500億円
小計:6800億円

★ソフト(大会関係)
・輸送:1400億円
・セキュリティー:1600億円
・テクノロジー:1000億円
・オペレーション:1000億円
・管理・広報:900億円
・マーケティング:900億円
・その他:1400億円
・小計:8200億円

★予備費:1000~3000億円

◆総額:1.6~1.8兆円

 そして、朝日朝刊(12/22:1面)では、2013年の五輪招致時の立候補ファイルに書かれた費用と現状とが比べられています。

 13年の会場整備費は4990億円でしたが、現状では、これがハード(会場関係費)6800億円にまで拡大。輸送費用は233億円⇒1400億円、セキュリティーは205億円⇒1600億円、残りのソフト費用が2571億円⇒5200億円にまで拡大しました(ソフト=大会関係費は3010億円⇒8200億円)。

都外の会場経費を各県で負担? 困惑する知事たち

 東京五輪では東京都以外の10の自治体でセーリングやサッカーなどの競技が開催されます。これに関連して、都外の7つの競技会場の整備費277.2兆円を都外の自治体で負担する案が突然に浮上し、他県の知事や市長などが当惑しているわけです。

 産経記事(12/22:1面)を見ると、会場ごとの費用が出ていました。

  • 札幌ドーム:31.5億円(札幌市、サッカー会場)
  • ひとめぼれスタジアム宮城:31.3億円(宮城県、サッカー会場)
  • 幕張メッセ:88.4億円(千葉県、レスリングなど)
  • さいたまスーパーアリーナ:33.1億円(埼玉県、バスケットボール)
  • 埼玉スタジアム:32.5億円(埼玉県、サッカー)
  • 江の島ヨットハーバー:30.5億円(神奈川県、セーリング)
  • 日産スタジアム:29.9億円(横浜市、サッカー)

 各県知事は必ずしも協力を否定してはいませんが、費用分担に関しては「何も言ってきていない」(千葉県・森田健作知事)、「来年度に事業を始めないと間に合わない。早く財源の見通しを示してほしい」(宮城県・村井嘉浩知事)等と困惑の声を挙げました。

 各県にも予算編成の日程があるので、そんなに突然に言われても困るのは当然でしょう。要するに、これは「いきなり言うな!」という話です。

 そして、12月26日には、10自治体が仮設施設の整備、大会運営を組織委員会が担うことを求める要望書を提出しています。

 読売夕刊(12/26:1面)では小池知事が「年明けに関係自治体の協議会を開き、年度内の負担割合の『大枠』を決める方針を示した」ところ、知事から不安の声があがったことが報じられています。読売は「約束は守ってもらいたい」(森田知事)、「原理原則は守るべきだ」(埼玉県・上田清司知事)、「役割分担がまだ決定していないのは異常だ」(神奈川県・黒岩祐治知事)等の声を紹介。

 17年初には黒岩知事が1月5日の記者会見で「藤沢市の江の島周辺の仮設施設(※セーリング競技場)の整備費用について、『県は負担しないというのが原理原則であり、予算措置をする必要もないと考えている』と述べ、県の新年度予算案に費用を計上しない考え」を述べたことが報道されています(NHKニュースウェブ1/9

五輪開催を巡る意思決定は政争がらみで迷走中?

 よくよくこの経緯を追ってみると、そもそも、当初の8000億円以下で開催可能とする見立ては、やや信じがたい話です。

 産経記事(12/22:17面)は当初の立候補ファイルでは7340億円の予算(警備や輸送などの経費がほとんど含まれていない)しか計上されていなかったと記していますがが、12年のロンドン大会の費用(2.1兆円)は周知の事実だったはずなので、どこからそんな数字をひねり出したのか?という疑問を感じずにはおれません。

 これは招致のためのPRだったのでしょうか。

 結局、その後、費用試算に関して、15年には森喜朗氏(組織委員会会長)が2兆円超をほのめかし、舛添知事が3兆円は要ると述べたりしています。

「予算膨張だ!」と批判する向きもありますが、ロンドン五輪は2.1兆円かかりました。AFP通信の記事(2016.7.20)ではリオ五輪の費用は総額約120億ドル(約1兆3000億円)。CNNの記事(2014.1.23)では、14年のソチ五輪が500億ドル(約5兆2300億円)、08年の北京五輪が400億ドル(約4兆1800億円)です。

 過去の数字で見ると、森氏が言う2兆円超というのは、それなりに信憑性があります(人口を比べるとロンドン市は867万人、リオ市は632万人、東京は1362万人)。

 本当に3兆円が必要だったのかどうかは検討が要りますが、もともとの数字がいい加減であることが混乱要因の一つになっています。

 過去の経緯から見ると、小池都知事を予算縮減に動かした要因の中には森氏への対抗意識も含まれているのではないでしょうか。

 結局、当初計画通りに戻さざるをえませんでしたが、ボート・カヌー会場や水泳会場、バレーボール会場の3施設の見直しにこだわった背景には、森氏が言う総予算よりも低コストで運営したいという考えもあったのでしょう。

 (※なお、三会場は以下の通りです)

  • ボート・カヌー会場:「海の森水上競技場」(東京臨海部)
  • 水泳会場:「五輪水泳センター」(江東区)
  • バレーボール会場は当初の有明アリーナ(江東区)

 意思決定を差し戻したことで決定が遅れたものの、一応、1.8兆円に収まり、小池知事としては「予算縮減をしました」と言える状態になったわけです。

 予算の効率化は期待したいところですが、経済的合理性ではなく、政争によって予算額が変動するのは、あまり望ましい話ではありません。

 内実を見ないで数字だけ予算を小さく見せると、あとあと予算膨張が起きる可能性もありますし、唐突に地方自治体に負担を求めても、各県の事情があるので、対応困難なケースが出てくる危険性があります。

 小池都政も豊洲市場移転ストップを契機に曲がり角を迎えていますが、そろそろ、パフォーマンス重視ではなく、実務重視の政治に切り替えていただきたいものです。

追記:2017年以降の五輪費用の議論について

 1月7日には安倍首相が五輪組織委の森会長と会談し、組織委と都、政府の三者協議の開始を歓迎しつつ、「開催都市の東京都がまず姿勢を示すことが大事だ」と述べたことが報じられています(ロイター「首相、五輪費用で森氏と会談」1/7)。

 そして、1月10日には安倍首相と小池知事の会談が開催され、小池知事は会談後、記者団に以下のように述べました。

「安倍総理大臣とは実務的な話はしていないが、3者協議やその前のワーキングチームなどでいろいろ協議している最中なので、基本的な考え方としてオールジャパンで対応していくということを確認した。安倍総理大臣からは『国としても連携したい』といういい返事をもらった」

(NHKニュースWEB「東京五輪・パラ開催費用 安倍首相と小池知事が会談」2017/1/10)

 さらに、13日に開かれた会議では、東京都と組織委員会、国の三者だけでなく、開催自治体の担当者が集まり、五輪競技施設の整備内容や経費等に関して、各自治体ごとに作業チームをつくり、具体的な検討を行うことが決まっています。

 1月19日には、千葉県が東京五輪開催までの経費(2014年度~2020年度)を昨年どおりの最大180億円とし、仮設施設整備などに関して、県は追加の予算計上はしない方針を明らかにしました。そして、東京都は25日に2017年度予算案の五輪経費では競技施設の整備費432億円を計上しています。ここには国や組織委等と協議中の仮設施設整備の予算は計上されていません。

 そして、組織委が試算する仮設施設整備費(約2800億円)のうち2000億円に関する、国や都、各自治体の負担問題の行方が注目されています。

 2月17日には、6道県にわたる11施設の整備費が438億円と見積もられたことが各紙で報じられています。その内訳は以下の通りです。

  • 北海道(サッカー会場):27億円
  • 宮城県(サッカー会場):27億円
  • 埼玉県(ゴルフやバスケ、ゴルフ、射撃):187億円
  • 千葉県(レスリング、フェンシング、テコンドー):73億円 ※幕張メッセ
  • 神奈川県(セーリング等):54億円
  • 静岡県(自転車):69億円

 そして、22日には、組織委が見積もる五輪の都外開催費(仮設整備費、警備費、輸送費等)の金額も報じられました。

  • 札幌ドーム:119億円(仮設整備費27億円)
  • ひとめぼれスタジアム宮城:122億円(同上27億円)
  • 幕張メッセ:218億円(同上73億円)
  • さいたまスーパーアリーナ:146億円(同上29億円)
  • 埼玉スタジアム:156億円(同上29億円)
  • 陸上自衛隊朝霞訓練場:178億円(同上89億円)
  • 霞ヶ関CC:162億円(同上40億円)
  • 日産スタジアム:163億円(25億円)
  • 江の島ヨットハーバー:122億円(29億円)
  • 伊豆ベロドローム+伊豆マウンテンバイクコース:239億円(同上69億円)

 ややこしい費用負担の調整をめぐる問題と政治的バトルが一体化してきていますが、国民の利益や東京五輪に対する世界の人びとの期待を忘れないでほしいものです。