トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

東京五輪 経費1.8兆円の内訳判明 都と各県での負担案に知事困惑

f:id:minamiblog:20161222070840j:plain

(お台場の夜景。出所はWIKI画像)

  東京オリンピックとパラリンピックが1.6~1.8兆円規模で開催されることが固まり、その経費の内訳が明らかになりました。

 時事通信記事では、国際オリンピック委員会(IOC)と東京都、大会組織委員会、政府の4者の会合が12月21日に都内で開催され、組織委は大会経費の総額が1兆6000億円から1兆8000億円になるとの予算を示したことが報じられています。そのうち、組織委が5000億円を負担。残りの金額を東京都、政府、他の自治体が負担するとされていました(「東京五輪、公費投入1兆円超=開催費総額1.6兆~1.8兆円-分担協議難航も」)。

 今回は五輪経費の負担問題について考えてみます。

東京オリンピック・パラリンピックの開催経費の内訳は?

 前掲記事で見ると、五輪とパラリンピックの開催経費の内訳は以下の通りです。

★ハード(会場関係)

・恒久施設:3500億円
・仮設など:2800億円
・エネルギーインフラ:500億円
小計:6800億円

★ソフト(大会関係)
・輸送:1400億円
・セキュリティー:1600億円
・テクノロジー:1000億円
・オペレーション:1000億円
・管理・広報:900億円
・マーケティング:900億円
・その他:1400億円
・小計:8200億円

★予備費:1000~3000億円

◆総額:1.6~1.8兆円

 そして、組織委のHPに公開された情報や新聞報道をもとに計算すると、組織委、都と国などの負担額(12/21時点)を計算すると、以下の通りになります。

 

組織委

都、国など

小計

ハード

900億円

5900億円

6800億円

ソフト

4100億円

4100億円

8200億円

小計

5000億円

1兆円

1兆5000億円

予備費

1000~3000億円

累計

1兆6000~8000億円

※組織委が示した開催費分担

※5月31日時点で、組織委負担は6000億円案が出ており、上記負担額は変更される見通し。

都外の会場経費を各県で負担? 困惑する知事たち

 東京五輪では東京都以外の10の自治体でセーリングやサッカーなどの競技が開催されます。

 これに関連して、都外の7つの競技会場の整備費を都外の自治体で負担する案が突然に浮上し、他県の知事や市長などが当惑しているわけです。

 産経記事(12/22:1面)を見ると、会場ごとの費用が出ていました。

(※追記:以下、2月17日と22日の記事の情報を加えました)

 2月17日と22日には、6道県にわたる都外11会場の総経費が1625億円(仮設整備費、警備費、輸送費等を含む)。

 都外会場の仮設整備費が438億円と見積もられたことが各紙で報じられました。その内訳は以下の通りです。

  • 北海道:119億円(仮設整備費27億円)※札幌ドーム(サッカー会場)
  • 宮城県:122億円(同上27億円)※ひとめぼれスタジアム宮城(サッカー会場)
  • 埼玉県①:146億円(同上29億円)※さいたまスーパーアリーナ(バスケ会場)
  • 埼玉県②:156億円(同上29億円)※埼玉スタジアム(サッカー会場)
  • 埼玉県③:178億円(同上89億円)※陸上自衛隊朝霞訓練場(射撃会場)
  • 埼玉県④:162億円(同上40億円)※霞ヶ関CC(ゴルフ会場)
  • 千葉県:218億円(同上73億円)※幕張メッセ(レスリング、フェンシング、テコンドー)
  • 神奈川県①:163億円(25億円)※日産スタジアム(サッカー)
  • 神奈川県②:122億円(29億円)※江の島ヨットハーバー(セーリング)
  • 静岡県:239億円(同上69億円)※伊豆ベロドローム+伊豆マウンテンバイクコース(自転車)

 各県知事は必ずしも協力を否定してはいませんが、費用分担に関しては「何も言ってきていない」(千葉県・森田健作知事)、「来年度に事業を始めないと間に合わない。早く財源の見通しを示してほしい」(宮城県・村井嘉浩知事)等と困惑の声を挙げました。

 各県にも予算編成の日程があるので、突然に言われて困るのは当然です。

「いきなり言うな」と憤った10自治体は12月26日に、仮設施設の整備、大会運営を組織委員会が担うことを求める要望書を提出しました。

 その後、読売夕刊(12/26:1面)では小池知事が「年明けに関係自治体の協議会を開き、年度内の負担割合の『大枠』を決める方針を示した」ところ、知事から不安の声があがったことが報じられました。

  • 「約束は守ってもらいたい」(森田知事)
  • 「原理原則は守るべきだ」(埼玉県・上田清司知事)
  • 「役割分担がまだ決定していないのは異常だ」(神奈川県・黒岩祐治知事)

 各自治体に困惑が広がり、17年初には黒岩知事が1月5日の記者会見で「藤沢市の江の島周辺の仮設施設(※セーリング競技場)の整備費用について、『県は負担しないというのが原理原則であり、予算措置をする必要もないと考えている』と述べ、県の新年度予算案に費用を計上しない考え」を述べていました(NHKニュースウェブ1/9)。

五輪開催を巡る意思決定は政争がらみで迷走中?

 この経緯を追ってみると、そもそも、当初の7340億円で開催可能とする見立ては、やや信じがたい話です。

 当初の立候補ファイルでは7340億円の予算しか計上されていなかったのですが、12年のロンドン大会の費用(2.1兆円)等と比べると、「どこからそんな数字をひねり出したのか?」という疑問がわいてきます。

 これは招致のためのPRだったのでしょうか。

 結局、その後、費用試算に関しては、15年には森喜朗氏(組織委員会会長)が2兆円超をほのめかし、舛添知事が3兆円は要ると述べたりしています。

「予算膨張だ!」と批判する向きもありますが、ロンドン五輪は2.1兆円かかりました。

 AFP通信の記事(2016.7.20)によればリオ五輪の費用は総額約120億ドル(約1兆3000億円)。

 CNNの記事(2014.1.23)によれば、14年のソチ五輪が500億ドル(約5兆2300億円)、08年の北京五輪が400億ドル(約4兆1800億円)です。

 過去の数字で見ると、森氏が言う2兆円超というのは、それなりに信憑性があります(人口を比べるとロンドン市は867万人、リオ市は632万人、東京は1362万人)。

 本当に3兆円が必要なのかどうかは検討が要りますが、もともとの数字がいい加減だったことが混乱要因の一つになりました。

 小池都知事が予算削減をPRしたのは前任者と森氏への対抗意識も含まれています。

 結局、当初計画通りに戻さざるをえませんでしたが、ボート・カヌー会場や水泳会場、バレーボール会場の3施設の見直しにこだわった背景には、森氏が言う総予算よりも低コストで運営したいという考えもあったのでしょう。

 (※なお、三会場は以下の通りです)

  • ボート・カヌー会場:「海の森水上競技場」(東京臨海部)
  • 水泳会場:「五輪水泳センター」(江東区)
  • バレーボール会場は当初の有明アリーナ(江東区)

 意思決定を差し戻したことで決定が遅れましたが、一応、1.8兆円に収まったので、小池知事としては「予算縮減をしました」と言える状態になったわけです。

 予算の効率化は期待したいのですが、経済的合理性ではなく、政争で予算額が変動するのは、あまり望ましい話ではありません。

 内実を見ないで数字だけ予算を小さく見せると、あとあと予算膨張が起きる可能性もありますし、唐突に地方自治体に負担を求めても、各県の事情があるので、対応困難なケースが出てくる危険性があります。

 小池都政も豊洲市場移転ストップを契機に曲がり角を迎えていますが、そろそろ、パフォーマンス重視ではなく、実務重視の政治に切り替えていただきたいものです。

追記①:2017年前半の五輪費用の議論について

 1月7日には安倍首相が五輪組織委の森会長と会談し、組織委と都、政府の三者協議の開始を歓迎しつつ、「開催都市の東京都がまず姿勢を示すことが大事だ」と述べたことが報じられています(ロイター「首相、五輪費用で森氏と会談」1/7)。そして、1月10日には安倍首相と小池知事の会談が開催され、その後、小池知事は記者団に以下のように述べました。

「安倍総理大臣とは実務的な話はしていないが、3者協議やその前のワーキングチームなどでいろいろ協議している最中なので、基本的な考え方としてオールジャパンで対応していくということを確認した。安倍総理大臣からは『国としても連携したい』といういい返事をもらった」

(NHKニュースWEB「東京五輪・パラ開催費用 安倍首相と小池知事が会談」2017/1/10)

 さらに、13日に開かれた会議では、東京都と組織委員会、国の三者だけでなく、開催自治体の担当者が集まり、五輪競技施設の整備内容や経費等に関して、各自治体ごとに作業チームをつくり、具体的な検討を行うことが決まっています。

 1月19日には、千葉県が東京五輪開催までの経費(2014年度~2020年度)を昨年どおりの最大180億円とし、仮設施設整備などに関して、県は追加の予算計上はしない方針を明らかにしました。そして、東京都は25日に2017年度予算案の五輪経費では競技施設の整備費432億円を計上しています。ここには国や組織委等と協議中の仮設施設整備の予算は計上されていません。

 そして、組織委が試算する仮設施設整備費(約2800億円)のうち2000億円に関する、国や都、各自治体の負担問題の行方が注目されています。 

追記②:東京都が都外の仮設整備費を全額負担

  その後、都と各県との暗闘が続きましたが、結局、5月11日に、小池都知事と安倍首相が官邸で会談し、東京都が都外の仮設整備費を全額負担することになりました。

 組織委の試算によれば、その累計は約438億円に及び、都議会からは「なぜ全額負担なんだ」という疑問や不満が出てきています。

 5月31日には、五輪経費を巡って東京都、国、大会組織委員会、開催自治体のトップが都内で会合を開き、予備費1000億~3000億円を除いた1兆3850億円の予算分担について大枠で合意しました。

 東京都が6000億円。組織委が6000億円。国が警備費等で1500億円を負担します。

 都外自治体の負担額は判明せず、350億円ほどが継続協議となりました。

 ややこしい費用負担の調整をめぐる問題と政治的バトルが一体化してきていますが、国民の利益や東京五輪に対する世界の人びとの期待を忘れないでほしいものです。