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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

どうなる税制大綱 ~配偶者控除の年収上限150万円へ(103万円の壁消滅)~

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(市街地の風景〔高松市〕。出所:WIKIパブリックドメイン画像)

  12月8日に平成29年度の税制改正の大綱が発表される予定なので、その中で焦点になっていた所得税の配偶者控除見直しの問題を取り上げてみます。

 従来、配偶者控除の年収上限には「103万円の壁」がありましたが、その年収要件が「103万円以下」から「150万円以下」に上がるという話です。

年収上限「150万円以下」になったら、配偶者控除はどうなるのか

 所得税の仕組みについておさらいしますと、まず、給与収入(年収)から給与所得控除(働く上で必要な経費と見なした控除)を引きます。

 ここで計上された給与所得から雑損控除(災害や盗難などの損害額)と所得控除(基礎控除や配偶者控除、扶養控除、障害者控除)が差し引かれ、課税所得が確定します。

 この課税所得に税率をかけると税額が算出されます。そして算出税額から税額控除(住宅ローン、株配当や寄付金控除等)を引いて納付税額が確定するわけです。

 この中の配偶者控除をどうするのか、という問題に関して、産経ニュース(「配偶者控除150万円に拡大 30年1月から 与党税協で一致」2016.12.2)では、以下のように報じられていました。

「配偶者控除は30年1月から実施する方針。現行制度は妻の年収が103万円以下であれば、夫の所得から38万円を差し引いて税負担を軽減する仕組み。妻の年収要件を引き上げ、パート主婦が今より長い時間働けるようにする。150万円以下が対象の場合、パート主婦世帯の大半が減税の恩恵を受けられる見通しだ」

「妻の年収が150万円を超えて急に手取り収入が減るのを防ぐため、150万円超から控除額が徐々に縮小し、201万円を超えるとゼロにする仕組みも導入する」

「夫(世帯主)の年収が1220万円を超える高所得世帯を控除の対象から外す」「ただ、高所得世帯の手取りが急減するのを避けるため、3段階の控除を設ける。夫の年収が1120万円までの世帯は控除を38万円とした上で、1120万円を超えると26万円、1170万円超は13万円と段階的に控除額を減らし、1220万円超でゼロにする」

 12月3日の産経記事(9面)では、税負担の変化の試算や企業の反応等が以下のように紹介されていました。

  • 夫の年収が1120万円超の専業主婦世帯を中心に100万世帯は増税
  • 妻の年収が0~103万円で夫の年収が1500万円の世帯の場合、年158000円の増税
  • 妻の年収が141~150万円で大学生と高校生がいる世帯の場合、夫の年収が500万円なら年52000円減税、1000万円なら109000円の減税になる。
  • 年末調整のために11月~12月の繁忙期に勤務時間を減らすパートやアルバイトの主婦が多いため、人手不足のスーパーや流通各社は歓迎している。

今回の税制改革では「夫婦控除」創設は見送りになった

 税負担の変化から見ると、中間層向けの税制改革だと言えるかもしれません。これは選挙対策も視野に入れた制度変更と見るべきでしょう。

 この問題に関しては、9月9日の税制調査会の会合で、安倍首相が、所得税の配偶者控除の見直しについて、女性が就業調整をしないで働けるようにしたい。多様な働き方に中立的な仕組みが必要だという趣旨のコメントを出していました。

 今の配偶者控除の仕組みでは、妻が年収103万以下だと夫に課税される所得から38万が引かれ、所得税が減るため、働く時間を減らしたほうが得になると考える方も多く、妻の労働に「103万円の壁」ができていたからです。

 これは年収103万円以下の妻がいる場合に所得税が安くなる仕組みなので、基本的には、専業主婦やパート主婦に焦点を当てた制度です。しかし、共働き世帯の増加に伴って「妻の年収が何万円でも夫の所得税を同じにしたほうがよいのではないか」という議論が出てきました。

 配偶者控除をなくし、働き方を問わない「夫婦控除」を創設し、「〇〇万円の壁」を気にせずにガンガン働けるようにしようとする案も出ていたのですが、これは配偶者控除を使ってきた専業主婦等にとっては痛手になるため、 専業主婦の支持者が多い公明党が難色を示し、この案は見送られることになったとも言われています(産経12/9:11面)。

パート労働の厚生年金の仕組みも変わっている

 今回の税制改革に関連した話ですが、10月から、パート労働に関しても厚生年金の仕組みが変わっています。従業員501人以上の企業で、勤務時間週20時間以上、年収106万円以上、1年以上の勤務という条件で、パートでも社の健康保険や厚生年金への加入させるようになりました(40歳を超えると介護保険も含まれる。なお学生は対象外)。これに伴い、夫の扶養に入っていた会社員の妻でも上記条件が当てはまる場合は、年収106万円以上になると、厚生年金と健康保険の保険料を払わなければいけなくなっています。

 仕組みがいろいろと変わっているので、来年の家計の計画を立てる際には、収入だけでなく、税金や保険料がどうなるかまで、しっかりと計算しなければいけなくなりました。

専業主婦が失業者扱いされているように見える財務省資料

 この改革の背景を理解するために、内閣府HPで9月9日にUPされた税制調査会資料(財務省作成)を見てみます。

 その中には「共働き世帯は年々増加。1990年代に専業主婦世帯数と拮抗し、1997年に逆転」というコメントつきで「共働き等世帯数の推移」というグラフが掲載されていました。

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(「説明資料 これまでの政府税制調査会の取組」平成28年9月9日(金) 財務省)

 2015年時点のデータで、【夫フルタイム:妻パートタイム】の世帯が506万世帯(45.4%)、【夫フルタイム:妻フルタイム】の世帯が413万世帯(37%)と書かれています。

 主婦業だけに専念できる女性のほうが珍しくなってきているわけですが、逆に、今にして思えば、1980年には有職の夫と専業主婦というカップルが1114万世帯もいたことに驚かされます(この図表を見て、筆者も子どもの頃、自分の母が働きに出たのは80年代半ばごろだったことを思い出しました)。

 なお、筆者には「無職の妻」という表現は専業主婦を失業者と同じ扱いに見えます。このあたりに、「もっと女性に働いてもらい、税収を増やしたい」という財務省の意思が感じられます。

社会の変化に合せた配偶者控除の仕組みとは

 この改革を不本意に感じる方もいらっしゃると思います。

 ただ、社会の変化に税制を合わせないと、共働きの女性にとっては不公平感が残る制度になってしまいます。今後、「夫が働き、妻は専業主婦」という世の中に戻るとは思えないので、時代の流れとしては、配偶者控除の変革は避けられないのでしょう。

 5年ごとに行われる就業構造調査の数字を見ると、2012年時点(12年7月12日発表)で「25歳~39歳の女性のうち働く人の割合が69.8%と過去最高を更新」しました。07年の前回調査では同じ年代の女性の比率が66.8%だったので、結婚後の女性離職で就業率が下がるM字カーブが緩和されたと見られています(日経朝刊1面:2013.7.13)。

 また、25歳~44歳の子育て世代の女性の中で、今働いている人と求職中の人の合計が全人数を占める割合を表す「労働力率」でも、2014年7月時点で74%という数字が出ています(読売朝刊1面:2014.9.15)。

 今後もこのトレンドは続くのではないでしょうか。

 現時点では試行錯誤が続きそうですが、一度、控除の仕組みを変えた後に、その後、世論の反応などを見ながら、平成30年以降も微調整が行われるのかもしれません。

 この制度の対象になっていた方にとっては、家計のサバイバルのために、今の配偶者控除の仕組みがある間はしっかり活用し、変わったら、今よりも一生懸命に働くしかなさそうです。

付記:税制大綱に含まれる小型増税にも要注意

 平成29年度の税制改正大綱に関して『週刊ポスト(2016.12.16)』(P50~53)では「国民の目を盗んであの手この手で画策中ーー増税役人たちの詭弁と詐術 もうガマンできない!」という記事が出ていました。

 この記事では「財務官僚は大型増税ができないとなると、細かい増税や減税廃止、社会保険料アップで国民の負担を増やそうとする”習性”がある」という問題意識の下、「増税役人たちの詭弁と詐術」として、現在進行中の増税プランを列挙しています。小泉政権の頃は消費税こそ上がらなかったものの、政権が代わる時には「国民負担がなんと年間13兆円(国民一人あたり年間10万円)も増え」たので、今も同じようなことが進行している可能性があると見ているのです。

 国民負担、年間13兆円増というのは、消費税6%程度の増税と同じぐらいの規模です。つまり、財務省は目的を見事に達成しています。

 週刊ポストが注目しているのは、以下の増税政策です(「」内は前掲記事からの引用)要旨紹介も含めて色変更

「自動車の税は『アメリカの30倍』」なのにエコカー減税縮小

 日本で自動車を稼働させるためには、たくさんの税金を払わなければなりません。

 自動車取得税(50万円以上にかかる)、消費税(購入車両や燃料にかかる)、ガソリン税(揮発油税+地方揮発油税:1リットル当たり58円)、軽油引取税、石油ガス税、環境税、自動車税、軽自動車税、自動車重量税・・・。これが自動車にかかる税の種類で、筆者は見ているだけで目が痛くなります。

 これに対して、ポスト誌は「車両価格180万円の車に3年間乗ると53万円の税金」がかかると試算しています。「車の税負担はドイツの3倍、フランスの13倍、アメリカの30倍にのぼる」のが現状なので、日本では「エコカー減税」を通して自動車重量税や取得税を減免していたのですが、財務省は「エコカーばかり売れすぎて重量税の税収が4割、取得税は6割も減った」として「来年4月から減税対象車を大幅に減らすと言い出した」と書いています。

  エコカーが売れて何か問題あるわけ?という疑問は一顧だにせず、エコカー減税の対象が狭められるので、お目当ての車がある方は、来年3月までにさっさと買っておいたほうがよいのかもしれません。

 エコカー減税の終了期限は2017年春から2年間延びますが、燃費基準が「15年基準」から「20年基準」に厳格化されます。自動車重量税で見ると、減税対象の車が新車に占める割合が、9割(16年度)⇒8割(17年度)⇒7割(18年度)と狭められるようです。

「タワーマンション増税」

現金等よりも「不動産に変えておいたほうが、相続税の評価は下がる。ここに注目し、取引価格の高い高層マンションの高層階の物件を購入し、子どもに相続させて節税する手法」(タワマン節税)が、都心の高層マンションの売れ行きを支えていたが、「財務省はそこに触手を伸ばした」。「タワーマンションの高層階の固定資産税や相続税の税率を引き下げ、”冷や水”をぶっかけようとしている」

 筆者は不動産を買うほどお金持ちではないので、新聞記事を見て「ふーん」と素通りしたのですが、この記事を見て、やっと財務省の狙いに気づきました。

 前掲の自動車にしろ、不動産にしろ、どうも、財務省には、何か盛り上がっているところを見つけると、そこに税金をかけたがる傾向があるようです。こちらも、タワマン節税をしたいなら来年3月までに頑張りましょう、というお話になっています。

 この固定資産税見直しに関しては、以下の産経記事(「タワーマンション課税、40階建てなら最大10%の差 固定資産税見直し」2016.11.27)に概要が出ています。

  • 1階ごとに税額を引き上げる。40階建てなら、最上階は1階より10%程度高くする
  • 20階建て以上の新築マンションが対象。1棟全体の税額は変えず、階ごとに差がつくようにして、高層階は増税、低層階は減税する。
  • 各戸の税額が現在は年20万円の40階建てマンションの場合、見直し後は1階が約19万円、階が上がるごとに増えていき、最上階は約21万円となる。

 不公平を解消するという名目ですが、ちょっと待て? 売れている高層階の税率を挙げて、その市場に水をぶっかけた後、下層階の物件の売れ行きが増えるとは限らないのでは・・・。全体の売れ行きが下がった場合は、結局、税収も減っていきそうです。

「ビール類増税『売れている酒は増税してしまえ』」

 さすがにこれは、筆者も新聞記事を見て気が付いた案件ではあります。何しろ、この税制改革のおかげで「第三のビール」や「発泡酒」が危機に立たされるそうですから。

「戦前からビールには戦費調達のために高い税率がかけられてきた。だから一般大衆は税率が低い発泡酒などが発売されるとそっちに走ったが、増税官僚たちは『多く飲まれる酒に重税を』という発想で、今回の税制改正でビール、発泡酒、第三のビールの税率を1缶(350ml)あたり55円程度に一本化する方針を固めた。第三のビールの場合、1缶27円の値上げ(増税)になる」

 これに対して、三木義一・青山学院大学学長が憤りのコメントを寄せています。

「日本のビール税率はアルコール度数に対して高すぎる。だから、業界はビールの高税率が適用されない発泡酒や第三のビールを開発せざるをえなかった。財務省は歪んだ税制を敷き、業界に他国なら必要ない無駄な努力を指させ、国民にビールまがいの酒を飲ませてきた。それをいまさら『国際競争力の低下を招いている』といわれたら、業界も国民も怒りますよ」(※財務省の増税理由はビール類の国際競争力強化)

 この改革に関する報道の一例として産経記事(2016/11/20:1面)を見ると、「類似商品の税額格差は公平性や企業の商品開発を歪め、ビールの国際競争力の低下を招いている」という上記見解に基づいて解説記事が書かれていましたが、三木氏のような異論は同じ紙面で紹介されていませんでした。

 身近なので、この増税は誰もが気づきやすい案件です。

 現在、政府は3段階でビール類の酒税を一本化しようとしています。

 2020年(平成32年)10月にビールは350ml当たり70円(※現在77円)になり、発泡酒は46.99円で現状維持、第3のビールは37.8円(※現在28円)になります。

 2023年(平成35年)10月にビールは同63.35円、発泡酒と第三のビールは46.99円。

 2026年(平成38年)10月にビール、発泡酒、第三のビールを54.25円とする予定。

 一応、ビールは77円⇒55円で減税になるのですが、今までは、ビールが高いと思った人の何割かが発泡酒や第三のビールに流れていたわけですから、この三種をみな同じ税率にしたら、低価格志向の客は、ビール類よりも安い酒を買うようになるのではないでしょうか。

 財務省は、一本化しても全体の税収は変わらないと見ていますが、他のお酒に逃げるお客が増えたら、ビール類全体の税収が下がります。そして、財務省が「なぜだ?」と疑問を感じたら、次は他の税が安いお酒も増税になる・・・そんなサイクルが起きるような気がしてなりません。

 顧客が逃げてビール類の市場が縮小したら、国際競争力の強化どころではなくなりますが、前掲記事によれば、財務省関係者は「55円に一本化して酒税法の抜け道をなくした上で、いずれ現在のビール税率(77円)にまで引き上げる」ことを構想しているそうです。

この三種類の改革では、売上が増えたところを引き締めていきます。

 しかし、結局、全体の税収が増えるかどうかが問題です。

 スーパーやコンビニで買い物をしていると、「今日のセールはこれ」という具合に、何らかの値引き品で人を集めて、他の品目の購入分も増やそうとしているわけですが、財務省の発想は、それとは真逆です。「税が低く、商品が売れているところがあれば、そこを増税する」と言っているからです。

 役所的な「不公平解消が大事だ」という理屈は、法律的な論理であり、経済を盛り上げるための考え方とは違います。この考え方で増税をすると、結局、消費が盛り下がり、全体の税収も下がるような気がしてなりません。