トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

イタリア憲法改正の国民投票 EU離脱、ユーロの信任、株と為替にどう影響する?

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(イタリア議会のシンボル。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 イタリアの憲法改正を問う国民投票の結果が、今後のユーロやEUに与える影響が注目されています。

 結果は5日朝にレンツィ首相の敗北(その後辞意を表明。後任はジェンティローニ首相)に終わり、同時期にオーストリアでも大統領選が行われたので(こちらは「極右政党」が敗北)、この結果も踏まえ、12月第一週は欧州に世界の関心が集まりました。

 まずはイタリアの国民投票改正の話を取り上げ、可能な範囲でオーストリア総選挙について書いてみます。

イタリア憲法改正の国民投票

事実上の一院制化と議員定数削減

 イタリアの国民投票で是非が問われる憲法改正案は、上院の定員を315人から100人に減らします。そして、下院の立法権限を強化し、二院制の議会制度のなかで事実上の一院制を実現しようとしています。

 この案が実現すれば、憲法改正等の例外を除き、上院の議決がなくても法案が成立するようになります。上院は下院で決まった法案に修正要求は出せますが、下院のほうには従う義務はなくなります。そして、政権発足時には内閣に対する信任投票が下院のみで行われ、上院は信任投票の権限を失い、内閣不信任決議も出せなくなります(上院議員は公選ではなく地方自治の代表者で構成されるようになる)。

二院制が行き詰まり、出てきた改革案

 この改革案が出てきたのは、二院制の運営がうまくいかず、「決められない政治」となり、国政が滞る状況が続いていたからです。

 今のイタリアでは上院と下院が同レベルの権限を持ち、二つの議会で同じ文言の法案が可決されないと法律が成立しません。審議している間にどっちかの議会で法案修正が行われると、もう片方の議会に法案が差し戻しになり、審議と採決が繰り返され、国政の遅滞が生じるわけです。 

 政権発足、または存続を計る上でも上下両院での信任投票が必要です。両院では選挙区も制度も違うので、上院と下院では議員のメンバー構成が違うため、この信任投票で政権が倒れるケースもありました(イタリアでは70年間で60以上の内閣が成立しており、長らく短命政権が続いていた)。

 これを問題視したマテオ・レンツィ首相は上院縮小・下院の権限強化を図り、実質的な一院制を進めるプランを提出したわけです。

今回の国民投票は、イタリア首相への信任投票にもなっている。

 レンツィ首相は国民投票で否決されたら辞任するとも述べているので、その結果が世界から注目されています。

 最大の議席を持つ民主党(中道左派)のマテオ・レンツィ書記長は39歳の若さで2014年2月に首相に選ばれ、左派とされるイタリア社会党や中道勢力、「市民の選択」(マリオ・モンティ元首相の支持政党)から成る連立内閣を立ち上げました。

 レンツィ氏は民主党の内部で前任者のレッタ氏に辞任を迫り、総選挙を経ないで首相になったため、その勝利に対する拒否感も国民の間には根強くわだかまっていました。

 そのため、今回の国民投票はレンツィ首相に対する信任投票とも見られており、同氏にとってはここで負けたら後はありません。

 反EUを掲げている野党の「五つ星運動」などがここで大きく支持者を獲得すれば、今後、反EUの勢いが強まるので、今回の国民投票は今後の欧州の行方に影響を与えるとも見られているわけです。

※元コメディアンのベッペ・グリッロ氏が率いる<「五つ星運動」、ベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」、「北部同盟」等の野党が反EUを標榜。

レンツィ首相が辞任したら、その後はどうなるのか?

 辞任後は政局の混乱が予測されますが、そのシナリオに関して、スイスの投資ファンド「PICTET」は以下の三つのシナリオを予測しています(以下、「結果と共にその後のシナリオが注目されるイタリア国民投票」12/2を参照) 

(1)小差で国民投票が否決(レンツィ首相不信任)の場合:

レンツィ首相は辞任する可能性があります。その場合マッタレッラ大統領が次期首相を任命する運びとなりますが、ここで再びレンツィ氏が首相に指名され、選挙制度を改正した後、総選挙を行うと思われます。

(2)大差で国民投票が否決(レンツィ首相不信任)の場合:
レンツィ首相辞任、マッタレッラ大統領は次期首相として、現在名前があがっているパドアン経済財務相などを軸に後任を任命する運びと思われます・・・後継者が人気を回復できないと与党が総選挙で敗北する恐れもあり、市場の動揺も高まる可能性があります。

(3)国民投票可決(レンツィ首相信任を獲得)の場合:
国民投票後もレンツィ体制が維持され、短期的には市場が最も落ち着きを見せるシナリオと思われます。しかし、反緊縮、反ユーロを掲げる極右政党の五つ星運動が総選挙で台頭するリスクが高まる

  一番目の場合、政治的儀式として辞任し、その後、国民投票で審判を仰ぐわけですが、これは国民の反発を買いそうです。僅差で負けた場合でも総選挙を考えたら別の候補を立てたほうが無難なはずなので、僅差否決⇒他の大臣に首相任命というシナリオもありえそうです。

 三番目はレンツィが勝っても国民の間では不満が堆積し、それが次の選挙で爆発という未来図かと思いますが、どっちに転んでも、反EU派に軍配が上がる可能性は無視できないのでしょう。

イタリアの議会の現状はどうなっている?

 イタリア政治のニュースを見るとよく分からない政党名が頻出するので、参考までに外務省HPの基礎データ(16年11月時点)を紹介してみます(※左側は党名もしくは会派名。【】は会派を構成する政党名)。

【上院の議席構成】※定数315+終身議員5

  • 民主党(PD):113人
  • フォルツァ・イタリア(FI)【自由の国民】:42人
  • 五つ星運動(M5S):35人
  • 国民エリア【新中道右派 NCD-中道連合UDC】:29人
  • 自治のために【イタリア社会党-在外伊人連盟運動】:19人
  • 自由国民同盟 【自治】:18人
  • 偉大なる自治と自由(GAL):14人
  • 北部同盟(LN)と【自治】:12人
  • イタリア保守改革派:10人
  • 混合会派:28人

【下院の議会構成】※定員630

  • 民主党(PD):301人
  • 五つ星運動(M5S):91人
  • フォルツァ・イタリア(FI)【自由の国民】:50人
  • イタリア左派-左翼・エコロジー・自由(SI-SEL):31人
  • 国民エリア【新中道右派 NCD-中道連合UDC】:30人
  • 北部同盟(LN)と自治【国民の同盟】:19人
  • イタリアのための市民の選択(SC)【在外伊人連盟運動】:16人
  • 市民派・革新派(CI):15人
  • 連帯民主主義-民主中道:13人
  • イタリアの同胞-国民同盟:10人
  • 混合会派:54人

憲法改正に関して、賛成派、反対派は何を主張している?

 この記事の冒頭部分で、どちらかと言えば賛成派寄りの解説をしていたのは、筆者が賛成派に近い意見のためです。

 日本でしたら、衆議院優越の原則がありますが、それがないイタリアの二院制は延々と両院のキャッチボールが続くため、不効率な仕組みになっています。この改革が必要なのは明らかでしょう(一院制みたいにしなくても、下院優越の原則を定めればよいと思うのですが)。

 選挙の最終日の模様を毎日記者の福島良典氏は以下のように報じています。

(「イタリア 国論二分、最後の訴え 憲法改正国民投票控え」毎日12/3)

「「五つ星」が特に批判しているのは改憲案で上院(現定数320)の規模と権限が縮小され、国民の投票で選ばれない非公選議会(新定数100)に改編される点だ。グリッロ氏は2日、ラッジ・ローマ市長らと共に「憲法と投票権を守ろう」などと訴えた」

「ローマ在住の主婦、アンナ・ボンディさん(45)は「イタリアの腐敗状況を見れば上院のチェック機能は役に立つ」と指摘。高校教師のルチーア・モドゥーニョさん(61)は「改憲で生まれるのは『民主主義の仮面をかぶった少数独裁政治』だ」と懸念を示した」

「レンツィ氏は「反対派が勝てば(定数630の下院と合わせて)950人もの国会議員が居座り続けることになる」と述べ、改革による国会スリム化とコスト削減を強調。一方で年金受給額が少ない老人に増額を約束した。南部ナポリでは反対派が多いが、年金生活者のアルマンド・サルザノさん(70)は賛成派。「国会議員が多すぎる。議員数と歳費を減らして、零細企業や失業中の若者への支援を手厚くすべきだ」

  確かに、一院制には議会暴走の危険性もあるので、反対派の意見も無視できない部分があります。例えば、日本では長年「決められない政治」が懸念されていましたが、2009年の政権交代が起きた時、二院制だったために当時の民主党の暴走にブレーキがかかった面がありました。決まらないことが結果的にプラスに働くこともあるわけです。

 世論調査等では、反対派が優勢だとも言われているので、一院制の危険性を考慮に入れるなら、下院優越の原則を入れるのが有力な落としどころになると思うのですが、そういうプランはイタリアでは出ないのでしょうか。

 最近の新聞を見ると、元首相のランベルト・ディーニ氏も改革案には反対を投じるとまで述べていたりします(以下の発言の出所は、日経朝刊2016/12/4:9面)

「権力分散はファシズム独裁再現を抑える歴史の知恵だ。一院制は煽動家に振り回されやすく明らかな改悪。私は国民投票で反対を投じるつもりだ」

 不思議なことに、ポピュリズムを危険視する与党側が煽動家が有利になる一院制を提唱し、煽動大好きの野党のほうが一院制に反対しています。奇妙な政策のねじれが生じているのです。

イタリア国民投票は為替や欧州の株価にどう影響するのか 

 産経ニュース(「イタリア国民投票 否決なら欧州危機再燃も」2016.12.3)はこの問題について、以下のように報じています。

 イタリアの銀行が抱える不良債権の総額は3600億ユーロ(約44兆円)。融資全体に占める不良債権の比率は約18%と5%未満の英独仏などと比べ、突出している。中でもイタリア3位の銀行、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)の不良債権比率は約4割に上る。

 同行は先月24日に最大50億ユーロの増資を決め、年内の完了を目指している。だが、国民投票の結果、レンツィ首相が辞任に追い込まれれば、増資手続きの延期を余儀なくされる恐れがある。レンツィ政権が主導してきた銀行再建が停滞するとの見方から、資金調達に支障が出る可能性が大きいからだ。

 危ないのはモンテ・パスキだけでないとも言われ、金融面の不安から為替と株価はイタリアの国民投票に合わせて激しく上下しました(※追記:不安の拡大を止めるため、23日にイタリア政府はモンテ・パスキを救済する方針を固めている)。

 ロイターのサイトでユーロと円の為替(終値)を見ると、119円(11/28)から122円(12/1)にまでユーロ安が進行し、翌日(12/2)も121円をキープ。株価のほうでは、日経電子版も「ロンドン株10時 続落、石油株に利益確定の売り」(12/2)とアラートを鳴らしていました。

2日午前のロンドン株式市場で、FTSE100種総合株価指数は続落。英国時間10時時点では、前日終値に比べ61.08ポイント安の6691.85で推移している。構成銘柄の約8割が下落している。アジア株の下落が波及し、欧州株も軒並み下落して始まった。4日のイタリア国民投票の警戒感も売り圧力になった。資源株を中心に売りが広がっている。

 石油株、鉱業株、保険株、銀行株が下がったとも報じられています。

 12月5日の午前に国民投票で敗れたレンツィ首相が辞任表明しましたが、それに応じて、本日の株価と為替は激しく動いています。

 日経平均株価は、18358円(9:10)⇒18232円(12:55)⇒18270円(14:05)と推移(グーグル検索画面上のJSTの数字)。

 ダウ平均は19161ドル(9:30)⇒19192ドル(11:20)⇒19159ドル(12:40)⇒19189ドル(13:00)⇒19148ドル(13:15)⇒19184ドル(15:35)⇒19165ドル(15:55)と上がり下がりを繰り返しました(出所:MSNマネー)。

 ユーロ円の為替は、119.77円(7:00)⇒118.97円(8:20)⇒120.37円(9:10)⇒119.58円(12:45)⇒119.88円(14:25)と推移しています(出所:ブルームバーグ)。

(※その後、12/31時点では、日経平均は19114円、ダウ平均は19762ドル、ユーロ円は122.97円となった)

 イタリアはもともとEU創設のメンバーの中心になった国の一つなので、そこでEU離脱運動が盛り上がることには、政治的に大きな意味があります。イギリスは後からEUに関わった国なので、イタリアがEUから離脱すれば、今の体制を支える柱の一つが崩れたことになるわけです。

 また、イタリア経済のパフォーマンスがあまりよくないので、その国でEU離脱勢力が大勢を占め、離脱後にやっていけるかどうかには不安が残ります。実質GDP成長率で見ると、11年以降、低空飛行を続けているのです(以下、外務省HPの基礎データの数字)。

  • 11年:0.6%
  • 12年:-2.8%
  • 13年:-1.7%
  • 14年:-0.3%
  • 15年:0.8%

 やっと谷間を抜けてきたのですが、フィナンシャルタイムスでは「経済生産のうち労働力と資本で説明のつかない部分を表す「全要素生産性(TFP)」は、ユーロ導入以降、ドイツとフランスで約10%上昇する一方、イタリアでは約5%低下した」とも酷評されています(日経電子版「イタリア国民投票にかかるユーロの未来」11/22)。 

 憲法改正の国民投票自体は「二院制の改革」という、あまり色気のないテーマなのですが、ここに首相の進退問題が加わったことで、急にこの選挙に注目が集まり、そこでEU離脱を訴える野党が躍進したことで、さらに大きなインパクトが加わることになりました。

 国民投票に敗れたレンツィ氏は辞任し、ジェンティローニ首相が後任となりましたが、どのみち2018年には総選挙があります。今後、EU離脱を訴える野党がどこまで躍進するかが大きな争点となるでしょう。

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(オーストリア国旗。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

追記:オーストリア大統領選はどうなった?

 オーストリア大統領選の投票結果は5日に判明しますが、アレクサンダー・ファン・デア・ベレン氏(「緑の党」前党首)と極右勢力と見なされている自由党のノルベルト・ホーファー氏との戦いは、どちらに軍配が上がるのでしょうか。

 ちょうどイタリアで行われる憲法改正の国民投票と日程が重なったため、この二国の選挙は、今後のEUの行方を占うイベントと見なされています。

 イギリスに続き、EU離脱の動きが他国にも波及していけば、欧州の政治・経済の枠組の根本が揺らぎ、ユーロの信頼性にも影響が出てくるので、これは為替に携わる人には目が離せないニュースでもあります。

 今回の大統領選挙では、戦後オーストリアの二大政党である社会民主党と国民党の双方が国民の信を失い、緑の党と自由党という左右の両極に位置する政党の候補者が決選投票をすることになりました。

 選挙の争点は移民政策ですが、これに関しては、2016年の1月20日の時点でオーストリア政府が年間の移民受入れ人数を半分(37500人)にすることが報じられていました。「オーストリアはドイツなどを目指してバルカン半島を北上する移民の経由国で、昨年の難民申請者は前年比率約3倍の約9万人に急増。政府はこれを抑制するため、2019年までの4年間で受け入れる申請者の上限を計13万人に設定」したのです(産経9面:2016/1/22)。

 普段、オーストリアのニュースはあまり日本には流れてこないので、これをきっかけに、同国の理解を深めてみたいものです。

注目のホーファー氏、その経歴と主張の中身は何?

 今回、注目の的となったのは、極右政党と見なされる自由党が躍進し、オーストリアの国民議会で第三議長を務めるノルベルト・ホーファー氏が大統領選の決選投票にまで勝ち上がったからです(新聞記事などでホーファー氏の肩書に「党首」と書かれていないのは、自由党の党首は彼ではなく、ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェ氏であるため)。

 緑の党のベレン氏は72歳ですが、シュトラーヒェ氏は47歳、ホーファー氏は45歳なので、自由党の二人は今回の選挙で敗れても、今後、巻き返せる年齢です。どちらもルックスがよいので、三人を比較した筆者は「高齢のベレン氏は厳しそうだな~」と思ってしまいました。

 日本語版のウィキペディアにホーファー氏のページはないのですが、英語版で見ると、ホーファー氏は1971年にオーストリア東部のブルゲンラント州の中流家庭に生まれ、91年頃まで航空工学を勉強し、94年までは軍役についていたと書かれています。

 96年以降、ホーファー氏はブルゲンラント州で自由党の要職を歴任し、シュトラーヒェ氏のアドバイザーと関係を深め、党の中枢に入ったようなのですが、ブルゲンラント州の副知事のために働いたとも書かれています。

 このシュトラーヒェ氏の主張の中で特に注目されているのは移民関連の政策です。「ウィーンをイスタンブールにするな!」「イスラムではなく、我が家だ」等と主張した同氏はEUの方針に反してでも移民を規制すべきだと訴えています。

 そして「オーストリア南部の国境に壁を作れ。移民を入れるな。大統領の仕事は国民の安全を守ることだ」等とホーファー氏も党政策にならって訴えているわけです。

 同氏の主張に関して、サイト「イロンナ」のBBC記事翻訳を見てみましょう(「EU離脱の国民投票もあり得る オーストリア大統領選候補」11/24)※以下、すべてホーファー氏発言。

「BBCの取材に対し、28カ国が加盟するEUはオーストリアにとって重要だとした上で、「より良い欧州連合」を望んでいると述べた」

「BBCに対し、自分が指導者になるのを恐れる必要はないと述べた。しかし、国内のイスラム教徒は国の一部だとしながらも、「我々の価値観にイスラム教は含まれない」と語った」

「同氏(※ホーファー氏)に投票することは、「オーイグジット」(Oexit=オーストリアのEU離脱)への賛成を意味しないと主張した。

「もし、ブレグジット(英国のEU離脱)への反応が、各国の議会の力がそがれた、欧州連合が国家のように統治する中央集権的なものになるとすれば、その場合は、オーストリアで国民投票をしなくてはならない。憲法修正に相当するからだ」と述べた。

(トランプ氏の)「ファンではないが、ロシアとの関係改善を大いに期待している」

(ドイツの移民門戸開放政策は)「管理ができていないと思う。EU全体だけでなく、オーストリアと納税者に巨大な負担をかけた大きな過ちだ」

 メディアに特に注目されているのは移民関連の発言ですが、同氏が所属する自由党がなぜ極右と言えるのか、という根拠に関して、各紙はあまり説明をしていません。

 移民追放の主張が排外的だとか、オーストラリア自由党の創立者の中に元ナチス関係者がいたなどの記述もありますが、何をもって「極右」とするのかが曖昧なまま、欧米系メディアの論調に乗っかっているようにも見えます。

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ベレン氏って誰? 緑の党ってどんな政党?

 ベレン氏が率いてきた「緑の党」は、環境保護を訴える政党として有名です。

 環境保護以外では、少数派の人権擁護、男女平等、市民が直接参加する民主主義、非暴力、自己決定権等を訴えており、リベラル勢力の一つの典型になっています。

 今回の選挙では移民に対する寛容政策が注目されています。

 元経済学者のベレン氏は今年で72歳なので、生まれたのは1942年。つまり第二次世界大戦の前になります。ホーファー氏は戦後26年に生れているので、この違いはかなり重要です。

 今回の自由党の躍進の原因もいろいろ分析されていくはずですが、大戦直後に育ったベレン氏の世代と大戦の記憶が薄れた70年代に育った世代との価値観の違いは無視できないのではないでしょうか。

 ベレン氏の主張に関しては、前掲のサイト「イロンナ」の翻訳記事で、以下の二点が紹介されていました。

(トランプ氏の)「選挙手法や性差別的な攻撃は容認できない。懸念を呼んだ主張内容については、数カ月の時間の猶予を与えるべきだろう」

(移民政策について)「リベラルで国際的なオーストリアが望ましい。旧来の国境をなくすことには、私は反対だ」

 テレビ討論は両候補の非難合戦。果たして選挙の結果はどうなる?

 メディアの報道では、12月1日に行われたベレン氏とホーファー氏のテレビ討論は非難合戦に終わったと報じられています。

(ロイター「訂正:オーストリア大統領選、最後のTV討論会で非難の応酬」12/2)

政策をめぐる議論からたびたび脱線し、互いの攻撃に時間を費やした。ホーファー氏が無所属で出馬しているファン・デア・ベレン氏に対し、「あなたには価値がない」と批判すると、ファン・デア・ベレン氏は「またうそをついている」と返した。ホーファー氏はさらに、ファン・デア・ベレン氏が諜報員だったと指摘し、徴兵制やオーストリアの中立をめぐる同氏の見解は「虚偽だ」と発言。ファン・デア・ベレン氏は「これほど不愉快な時間を過ごしたことはない。ばかげている」と反論した。

 5月の投票の時はベレン氏がわずかな差で勝ったのですが、開票方法に問題ありとされ、選挙がやり直されることになりました(72歳で苦しい選挙を乗り切ったと思ったら、当選無効を命じられたベレン氏は気の毒です)。

 アメリカ大統領選と同じく、テレビ討論は泥仕合だったようです。集票の問題で投票結果が無効になったたというのも非常に気になります。現在、アメリカでも票の再集計を巡る議論が出ているからです。

 ホーファー氏はEU離脱を巡る主張を抑えながら大統領選を戦っていますが、同氏が勝てばオーストリアのEU離脱が近づくことは間違いありません。また、「極右の勝利」と見なされ、EUやユーロの未来が不安視されることになります。

 ユーロと円の為替を見ると、ロイターのサイトでは、119円(11/28)から122円(12/1)にまでユーロ安が進行し、翌日(12/2)も121円をキープしていました。

 欧州株等にも影響が出そうな選挙なので、その行末が非常に気になります。

追記:ベレン氏が12/5の3時頃で当選確実に

 ネットニュースの各紙がベレン氏の当選確実を12月5日の3時頃に報じ始めました。今回の選挙では「極右」の大統領は誕生しない見込みです(その後、ベレン氏の当選確定)。