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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ氏 大統領就任初日にTPP離脱宣言 為替、株価トレンドはどうなった?

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(ロサンゼルス港 出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が「あらゆる保護主義に対抗する」と宣言した翌日に、トランプ氏は「大統領になった初日にTPP離脱だ!」と強力なカウンターパンチを放ってきました。

 12か国が署名したTPPは、参加国のGDP合計が85%以上を占める6か国以上が国内の手続きを済ませないと発効しないので、参加国GDPの6割を占める経済力を背景にしたトランプ氏の発言には、覆しがたい凄みがあります。

 情けないのはTPPを推進したオバマ大統領です。任期の最後にTPP発効もかなわず、大統領選の民主党敗北の世論を気にしてか、「あとはトランプ氏に任せる」と撤退戦に専念しています(←米国ではなく、オバマ氏がTPPから撤退中・・・)。

 日本時間で22日の昼頃、トランプ氏が就任初日の予定を語ったビデオを公開。就任初日にTPP(環太平洋連携協定)を離脱することを予告しました。ロイター記事「トランプ米次期大統領、就任初日にTPP離脱通告へ」(11/21)によれば、トランプ氏は以下の構想を発表。

(TPPは)「米経済にとって大惨事となる可能性がある」

(TPPに代わり)「米国に雇用と産業を呼び戻す」二国間貿易協定の締結を目指すと言明。「米国第一」の中核原理を基本に据え、「次世代の生産や技術革新を米国内で実現し、国内労働者に富と雇用をもたらすことを望む」と述べた。

米国TPP離脱は市場織り込み済み? 為替、株価トレンドは変わらず

 ただ、米国TPP離脱に関しては、市場はもはや織り込み済みの案件と見なしていたせいか、株価と為替でトレンド変化はありませんでした。

 NYダウ平均と日経平均株価、為替(ドル円)の動きをざっと見てみます。

【NYダウ平均】

18956.69(21日)⇒19013.87ドル(22日)

【ドル円】

110.82円(21日)⇒111.06円(22日)

(※ダウと為替はブルームバーグサイト参照)

【日経平均株価】

18106円(21日:15時)⇒18111.85円(22日:10時)⇒18161.86円(22日:15時)

(※こちらはグーグル画面上の「NI225 - 11月22日 15:00 JST」の数字)

 特にトレンド変化はないので、「まあ、トランプさんなら、そんなもんでしょ」という反応に見えます。

トランプ大統領就任初日の重点政策の中身は何?

 「開けてびっくり玉手箱!」という感じなのか、それとも小包み爆弾なのか、何とも言えませんが、良くも悪くもエキサイティングな項目を並べてきています。

 読売夕刊(11/22:1面)のトランプ政策の要旨から引用してみます。

  1. 「TPPから撤退」「公平な二国間貿易を通じ、米国の雇用と産業を取り戻す」
  2. 「エネルギー生産に関する規制を廃止。数百万もの高賃金雇用を創出」
  3. 「規制を一つ新たに作る場合、古い規制を二つなくす原則を徹底」
  4. 「サイバー攻撃から米国の重要インフラを守る総合計画を策定」
  5. 「米国の労働者より低賃金で働けるビザについて、不正使用を実態調査」
  6. 「政府高官に対し、ロビイストになることを退職後5年間禁止。外国政府のためにロビー活動は生涯禁止」

 一番目は、何をもって二国間貿易を「公平」と判断するのかが怪しいので、「ジャイアン的な基準が外国に押しつけられるのではないか?」という懸念が残ります。

 二番目はオバマ氏がやりすぎた化石燃料規制を緩め、シェールガスや石炭火力などを盛り上げようという話です。

 三番目は面白い発想です。日本もこれはやってみたらよいかもしれません。

 四番目はオバマ政権の頃からあった話なので特に新味なし。

 五番目は自国民への逆差別がないかどうか調べるぞという宣言。

 六番目は政界の既得権益層をターゲットにした政策ですが、後段の外交政府のためのロビー活動を、実際に誰がやっているのかが気になります。トランプ政権になると「あの人が実は〇〇国のためにロビー活動していた」という話が明らかになるのかもしれません。

政府主導で企業に国内生産を奨励?  そんなのうまくいくのか?

 よりどりみどりな内容ですが、日本に影響がありそうなのは、特にTPPのところで、トランプ氏は以下のように述べています。

「私の政策指針は『米国第一』の原則のみに基づく」

(鉄鋼、自動車、医療等で)「偉大な国・米国で次の世代のものづくりやイノベーションを実現し、米国人労働者のために富と雇用を作り出す」

「米国に雇用と産業を取り戻す」

 筆者には、トランプ氏の貿易政策や大企業批判(アップル等の企業が外国で生産するのがよくないという主張)には、経済的合理性が欠けているように見えてしかたがありません。外国で生産するのは、人件費等のコストが高く、米国内で生産しても割が合わないからなんじゃないでしょうか。

 法人税減税その他を行うとしても、元々の物価の違いや人件費の差があるので、「米国内で生産するほうが得だ!」という状況を本当に作り出せるのかどうかは疑問が残ります。

 また、アメリカ車が売れない、とトランプ氏は文句が言いたいのかもしれませんが、道の狭い日本で、デカすぎるアメ車が売れないのは、当然の帰結です。 

 政府主導でむりやり国内生産を誘導しようとして、経済的合理性のない政策の乱発になったりしないかという懸念が残ります。

 規制緩和やエネルギー生産の盛り上げ、サイバー対策、ロビイスト規制などは、妥当な政策に見えるので、「プラスマイナスの両者を精算して、何かプラスが残れば、それでよし」と考えるべきなのかもしれません。

CNNがトランプ政権の通商政策案を入手

 安倍首相は15日に参院で「(TPPが発効しなければ)軸足は東アジア地域の包括的経済連携(RCEP)に移る。そこで国内総生産(GDP)最大の国は米国ではなく中国だ」と述べ、トランプ氏を念頭に置いて「君子豹変す。国や国民のためになれば、メンツを捨てて判断する。それが指導者に求められる姿勢だ」と述べましたが、果たして、選挙中に延々とTPP反対を訴えていたトランプ氏が就任直後に豹変できるのでしょうか。

 CNNが入手したトランプ政権の通商政策を記した文書(政権移行チーム起草)では、なかなかやっかいな内容が書かれているようです(CNN日本語版記事:11/16)

「共和、民主両党のグローバル主義者と決別する」

「トランプ政権は長年にわたった融和的な通商政策を覆す。新しい貿易協定は、米国の労働者と企業の利益を第一とすることを前提に交渉を行う」

  政策転換を呼びかけ、以下の五項目がつづられています。

  1. NAFTAからの撤退または再交渉
  2. 環太平洋経済連携協定(TPP)の阻止
  3. 「不公平な輸入」の停止
  4. 「不公平な貿易慣行」の停止
  5. 二国間貿易協定

 この文書は、まだ案の段階なので、本当に実現するかどうかは未定だとされていますが、新政権の初日については以下のように書かれています。

「NAFTA改革に着手し、米商務省と米国際貿易委員会(ITC)に対し、NAFTAから撤退した場合の影響や撤退に必要な立法措置について検討するよう指示する」「為替操作に関する法案も提出する」

 政権発足初日に結構、ショッキングな発言が飛び出すのかもしれません。現時点では各国首脳と会談するなどして情報を集め、内部で議論を煮詰めているようですが、政権初日には、その結果、固まった方針が次々と具体化されるのでしょう。「貿易相手国が『有害な』行為を行っていないかどうか」を審査するそうですから、各国の金融緩和等に対してあれこれと文句を言ってくる可能性があります。

 そして、100日目の目標では中国が槍玉にあげられていました。

100日目までにNAFTAに関する再交渉を継続するとともに、中国を為替操作国に認定できるかどうかの検討および二国間交渉を通じて中国に対する断固たる措置を追求する。

 過去の大統領は中国を批判するのは選挙中だけという人が結構、多かったので。アメリカが対中政策を転換するのかどうかは、非常に興味深いところです。

200日目までにはNAFTAからの正式な撤退について検討し、引き続き二国間貿易協定を追求する。議会で貿易協定関連の議案を迅速に通過させるため大統領の権限を強化する「大統領貿易促進権限」を2018年までの期限で議会に承認させる。

 大統領主導で通商政策を変えようとしています。名前に上がっているのはNAFTAですが、その後、TPPも似たような過程を辿るのかもしれません。トランプ政権にTPP反対撤回を説得するのは、なかなか難しそうです。何しろ、これをメインの政策にして労働者票を一生懸命に集めていたわけですから。

追記①:減税政策に高まる期待。TPP脱退に高まる懸念・・・

 『週刊東洋経済』(12/31-1/7:P46~47)は、トランプ氏の減税政策の規模(国民所得比2%超)がレーガン政権(同1.5%以下)、ブッシュ政権(同1%以下)を越えていることに注目しています。そして、「公約どおり、法人税の税率が15%に引き下げられた場合、ハイテク企業が集中するカリフォルニア州は、州・地方税を合わせた法人実効税率が中国よりも低くなる」と指摘しているのです。

 今の株高はこの減税政策と10年間で5500億ドル以上とされるインフラ投資への期待から生まれていますが、トランプ氏当選後、期待通りの水準で政策が実行されるかどうかが重要な争点です(期待がはげ落ちた場合は株価に影響が出てくる可能性が高い)。

 また、トランプ氏の過激な保護主義が強行されれば日本のGDPが1%程度押し下げられるとの試算も出されています。減税政策の効果とTPPやNAFTA脱退の影響が合わさって、いったい、何が生まれるかが、大統領就任後の見所になります。

 ムニューチン氏とロス氏は11月30日にそろって米CNBCのテレビ番組に出演し、中国に対する為替操作国指定に関して「必要があると判断すれば財務省として指定する」とも述べました(産経12/1:11面)。

 米国が関税をかければ中国も対抗措置を取るため、米中間の関税合戦という前代未聞の光景が展開した時、日本の取るべき具体策を考えておかなければなりません。

追記②:安倍首相は1月にTPP承認を閣議決定

 トランプ大統領は、17年1月11日の当選後初記者会見でも貿易不均衡の問題を巡り、アメリカの通商政策を大失敗と見なして中国や日本、メキシコ等を批判しています。

 最大の批判対象はアメリカの貿易赤字(7456億ドル)の約半分を占める中国ですが、対日赤字も約700億ドルの規模にのぼっているので、トランプ氏から見ればけしからん国の範疇に入っています。

 安倍首相は1月中旬にオーストラリアとベトナムを訪問し、TPPを発効させるべく連携することを確認し、20日にTPP承認を閣議決定しました(TPP承認を取りまとめ国のニュージーランドに通知)。

 その後、日本時間で1月21日未明にトランプ氏は大統領に就任し、その後にTPP離脱を表明しています。

 安倍政権はトランプ氏の翻意に期待していますが、トランプ氏が就任演説後に中西部(ペンシルベニア州やオハイオ州、ウィスコンシン州等)の製造業に携わる支持者を裏切ることは考えにくいのが現状です。

 トランプ大統領就任後、ホワイトハウスから早期訪米を目指す安倍官邸への返答はなく、安倍首相の訪米は2月以降に先送りされそうな雲行きです。

 TPPに関しては、早期訪米しても成果は見込めず、「安倍訪米⇒撃沈」という結末になりかねないため、結果的には、訪米までに対米外交の戦略を練り直す期間が生じたと言うべきなのかもしれません。 

追記③:1月20日(米国時間)にトランプ大統領就任

 トランプ新政権は1月20日(日本時間21日)に就任式を行い、その後にTPP離脱を表明。NAFTA(北米自由貿易協定)に関しても再交渉を始める方針を明らかにしました。米労働者への公正な扱いがなされないならNAFTAから離脱するという強硬路線です。

 これに関しては、就任後に4つか5つの分野で大統領令が出されると述べていたスパイサー報道官の予告通りです(ロイター記事(「トランプ氏、閣僚人事承認待たずに貿易協定で公約実行へ=報道官」2017/1/20)

 いっぽう、日本では、トランプ就任前の20日にTPP承認が閣議決定されています。

 1月中旬のオーストラリアやベトナム訪問でもTPP加盟国と発効に向けて連携することで合意し、20日にTPP承認の通知を取りまとめ国のニュージーランドに通知したわけです。

 これはTPPを脱退したトランプ氏にとっては、一種のあてつけに見えるのではないでしょうか。

 安倍政権はトランプ氏の翻意に期待していますが、大統領選で重要な役割を果たした中西部(ペンシルベニア州やオハイオ州、ウィスコンシン州等)の製造業に関わる支持者を抱えるトランプ氏が翻意してくれるとは思えません。

 実際、1月27日の安倍首相の訪米シナリオは消滅し、2月以降の訪米となることが確実視されています。

 今の日本にとって大事なのは、2月以降の訪米までの間に、対米外交の方針を練り直すことだとも言えそうです。

※トランプ大統領就任前後の株価と為替の変化(日本時間)

【NYダウ平均】

19838ドル(1/21:1:05)⇒19768ドル(1/21:4:20)⇒19827ドル(1/21:6:10)

【ドル円】

115.2円(1/21:1時)⇒114.5円(1/21:6時)

(※ダウと為替はブルームバーグサイト参照)

【日経平均株価】

19594円(1/4)⇒18813円(1/17)⇒19139円(1/20:15時)⇒18914円(1/23:9:15)