トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプ氏 日本の核容認発言撤回? 安倍会談後の日米同盟はどうなる? 

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(迷彩服を着たアメリカ海兵隊員の絵 出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  今日の読売新聞(2016/11/14:夕刊1面)では、トランプ氏が「首席補佐官に党主流派」を選び、「日本の核容認」を「撤回」したと報道されています。

 「不法移民300万人送還」という目玉が落ちるようなオマケもついているので、こちらの行方も気がかりですが、昨今の報道を踏まえ、今後の日米同盟がどうなるかを考えてみます。

プリーパス氏首席補佐官指名の狙いは共和党主流派とのトランプ関係修復?

 前掲の読売記事では、大統領首席補佐官に指名されたラインス・プリーパス共和党全国委員長(44歳)がライアン下院議長等がトランプ氏を見放した後も大統領選を支え、今回の大勝利に貢献した人物であることに注目し、これは論功行賞的な人事ではないかと述べています。

 今日の日経夕刊(2016/11/14:1面)でも、プリーパス氏が「地元が同じウィスコンシン州のライアン下院議長ら党主流派とも良好な関係にある」ことを指摘し、狙いは主流派との関係修復だろうと書いていました。

(※読売前掲記事によれば保守系メディア会長で選対トップだったスティーブン・バノン氏(66歳)は大統領上級顧問・首席戦略官に指名される)

 そして、トランプ氏が日本の核武装容認発言を撤回したのはツィッター上のコメントです(以下、筆者訳。トランプ氏のツィッターのリンクはこちら

「ニューヨークタイムスは今日、ドナルド・トランプは『より多くの国が核兵器を持つべきだと信じている』と述べた。なんて彼らは不正直なんだ。私は決してそんなことは言っていない!」

"The @nytimes states today that DJT believes "more countries should acquire nuclear weapons." How dishonest are they. I never said this!"

 選挙期間中、トランプ氏は「日本が北朝鮮から自衛目的で核兵器を保有することは認められるか」と聞かれた時、容認される可能性もあると示唆していました。

 トランプ氏のツィッターでニューヨークタイムス紙が書いたとされる発言とは違いがありますが、見方次第ではそう取れる発言ではありました。

 筆者は、必ずしもNYT紙がウソつきだとまでは言えないと思うのですが、このツィッターでのNYT紙批判は政策を従来の共和党の路線に近づけるための発言に見えます。

 他の新聞を見ると、今日の毎日夕刊(2016/11/14:1面/9面)ではなぜか核保有発言の撤回は無視され、不法移民送還とメキシコの壁の話が多めに取り上げられていました。1100万人の「不法移民全員送還」から「麻薬密売等の犯歴がある人を200~300万人送還する」というプランに「穏健化」(まだ過激ですが)し、メキシコ国境につくる壁に関しても、場所によっては「フェンス」でもよいことになったらしいのです。

※1/17追記:1月11日の当選後に行われたトランプ氏の初記者会見では、メキシコ国境には「フェンス」ではなく実際の壁をつくることが強調されている。

日本核武装の選択肢は中国、北朝鮮への交渉材料?

 トランプ氏も、さすがに選挙期間中の発言をそのまま実行はできないと考え始めたのかもしれません。政権移行チームはペンス副大統領が取り仕切っているので、今後の政策の実現においては、実務家のペンス氏の影響力は無視できないでしょう。

 日米同盟に関しては、1)日本の核保有容認の可能性と、2)もっと費用を負担しなければ米軍撤退だ、という発言が出ており、そのうち1)が撤回される可能性が濃厚になっています。

 しかし、後者はまさにトランプ・安倍会談のテーマそのものなので、11月17日の会談前に答えを言う可能性は低く、17年1月20日にトランプ氏が正式に大統領に就任した後でなければ、どんな結論になるのかははっきりしません。今のところ、その答えが出る可能性が高いのは1月27日の日米首脳会談のあたりです。

 当選後にトランプ氏が政策を軟化させる兆しを見せたのは、立場を曖昧にすることで各国との交渉を有利に進めるためであろうと推測されています。

 例えば、日本核保有に関しても、完全否定もしくは完全肯定の立場を取らないほうが、習近平氏と会談する時に交渉がしやすくなります。中国側がしつこくゴネた時に、トランプ氏が「それなら、日本に核武装させるぞ!」と切り出せば、さしもの中国でも「それだけはやめてくれ」と言わざるをえないからです。

「そんな考え方ってありなの?」という疑問もあろうかと思いますが、実際、ブッシュ政権の頃に強硬派の言論人が、核実験を止めない北朝鮮を牽制するためには日本を核武装させるべきだ!と言っていたことがあります。

 ブッシュのスピーチライターをし、中国、北朝鮮、イランを「悪の枢軸」と批判したデービット・フラムはニューヨークタイムスで「日本に核拡散防止条約の放棄と独自核保有を薦めよ」「核保有した日本(核保有した韓国や台湾)は中国や北朝鮮が最も恐れていることだ」と論じています(”Mutually Assured Disruption” By DAVID FRUM OCT. 10, 2006)。以下、原文。

”Encourage Japan to renounce the Nuclear Nonproliferation Treaty and create its own nuclear deterrent.””A nuclear Japan is the thing China and North Korea dread most (after, perhaps, a nuclear South Korea or Taiwan).”

 トランプ氏は中国の輸出品に高関税をかけようとしているので、日本核武装の可能性を残しておいたほうが、交渉上は有利です。

 そのあたりを考えると、トランプ氏が選挙中に日韓核武装の可能性を示唆したのは、現実に実現するためではなく、中国や北朝鮮を牽制するためだったのかもしれません。

 トランプ氏の「アメリカファースト」という外交政策は「過激政策をちらつかせ、各国首脳を挑発」⇒「各国首脳と会談・交渉」⇒「多様な会談・交渉を経た上で、アメリカに最も有利な選択肢を取る」という、ビジネスライクな過程をたどるのではないでしょうか。

米軍駐留費の負担増? 日米同盟は見直されるのか?

 トランプ・安倍会談では、核政策や米軍駐留費の負担等を巡り、日米同盟に関しても意見交換がなされます。

 日本が多額の思いやり予算(年2000億程度)を負担し、米軍基地を支えることで朝鮮半島や台湾、南シナ海にまで影響を与えているーーそうした現実をトランプ氏に理解してほしいものですが、同氏が理解できなければそれまでです。

 『週刊現代』(2016/11/14)の記事では、トランプ氏が日本に無関心なだけでなく、安全保障を担当するマイケル・フリン氏も「元陸軍中将で、中東の専門家」であり、「日本や東アジアのことは素人」にすぎないので、いち早く交渉のためにパイプをつくらなければいけないと書かれていました。

 その交渉の中身が気になりますが、トランプ氏は「最悪の場合、日米同盟破棄もありうる」という脅しをかけられるので、日本側に今後のプランがなければ、単に「思いやり予算」(在日米軍駐留経費の中の日本負担分)が異様に増やされるだけで終わりになりそうです。

 アメリカに思いやり予算を払っても、日本には何も資産は残りません。お金が毎年、消化されるだけなので、この予算の肥大化は避けたいところです。

 日本に「負担」を要求するトランプ氏へのましな返答があるとすれば、「自衛隊の活動範囲と規模を広げ、米軍の仕事を肩代わりする」というプランがありえます。

 そのために自衛隊の装備に投下するお金を増やした場合、日本の側に資産が残るので、これは思いやり予算の増額よりはましな話です。装備の購入元を米国の軍需産業あたりにしておけば「アメリカファースト」とも矛盾しないので、トランプ氏が怒ることもないでしょう。

 今後、ありそうなのは、防衛費をGDP比で1%しか負担していない日本にNATO諸国並みの防衛負担が求められるというシナリオです。

 世界では2%程度の防衛費を使っている国が多く、オバマ政権でも、NATO諸国の中で防衛負担が少ない国はGDP2%程度の防衛費を使うべきだ、という要求を出したことがあります。同盟国に防衛費を負担させればアメリカの負担が減り、国内政策にお金を使えるようになるからです。

 現時点でトランプ氏は「日本とのパートナーシップで、関係を強化していく」とは言っているので、日米同盟そのものが破棄されるとは思えませんが、今後は「アメリカが『矛』、日本は『盾』を担う」という同盟のかたちが見直され、「『矛』の分も日本で賄え」という話が浮上してくる可能性が高まっています。

 具体的に言えば、「尖閣諸島ぐらい、日本の海自と空自で守れ。アメリカの海兵隊の応援がなくても中国との有事に対応できる戦力をつくれ。空自のF2にも米軍のF16並みの対地攻撃能力を持たせろ」等といった話が出てくる可能性があります。

 日本が防衛費を増やし、米国の防衛産業から装備を購入すれば、アメリカの利益にもなります。トランプ氏はビジネスマンなので、日本に防衛費増額の要求を出し、「アメリカの軍需産業から装備を買ってくれ」という話を着地点にする可能性があるのではないでしょうか。

(※追記:トランプ氏が大統領に就任後、16年内には1/27訪米と言われていた日米首脳会談の日程が2月10日で固まりました)

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(ニューヨークを飛ぶF16戦闘機 出所はWIKIパブリックドメイン画像)

追記①:トランプタワーでの会談は無事終了

  トランプ・安倍会談が行われ、18日の日経平均株価は18000円前後を推移しています。16日~17日は17800円台だったので、会談後の両者の発言の印象がよかったのでしょう(なお、15日は17600円台で推移)。ドル円の為替をブルームバーグのサイトで見ると、109.2円(15日)⇒109.08円(16日)⇒110.12円(17日)と推移し、18日は110.88円(16:25)を頂点に下降気味になっています(18日22時30分頃)。

 トランプ氏にとって、今回の会談は、国民の不満をあおる選挙モードから、現実的な利害関係を元に動く実務モードへの切り替えの儀式となり、安倍首相にとっては、選挙の勝者の予測を見誤った遅れを取り返す好機となりました。

 会談の中身はブラックボックスに入っているので、結局、両者の会談後の発言から中身を推測するしかないのですが、中国の習近平主席や、韓国のパククネ大統領に先立って会談ができたことは、今後の外交にとってプラスになりそうです。

 そもそも、会談が始まったのは米国時間で17日の午後5時前なので、日本で言えば18日の早朝ぐらいです。場所はトランプ・タワーですが、中身に関して、外務省HPでは「会談後,安倍総理からは,ゴルフクラブを贈呈し,トランプ次期大統領からは,ゴルフ・シャツなどのゴルフ・グッズが贈呈されました」としか書かれていません(トランプ氏はゴルフが大好き)。

「ロータリークラブのおっちゃん同氏の会合じゃないんだから、ちゃんと書いてくれ」と思うのですが、大統領就任前の人物との前例なき会談のため、それはできません。

 会談後の安倍首相の発言は以下の通り(「トランプ氏会談後の安倍首相質疑内容
」2016/11/18 日経電子版 ※一部省略しています) 

「人事で大変お忙しいときに、時間を割いていただいた。2人で本当にゆっくりと、じっくりと胸襟を開いて、率直な話ができた。大変温かい雰囲気の中で会談を行うことができた。ともに信頼関係を築いていくことができると確信の持てる会談だった」

「具体的なことについてはお答えできないが、同盟は信頼がなければ機能しない。私はトランプ次期大統領は、まさに信頼できる指導者だと確信した」

  トランプ氏はリップサービスをしながら政権の期待度を高めなければいけませんし、安倍首相は、おだてられるのが好きなトランプ氏を持ち上げなければいけません。PRは「他人に言わせる」ことが要なので、安倍首相に持ち上げてもらうことは、トランプ氏にとってもメリットは大きいのだろうと思います。

 トランプ氏のフェイスブックには「安倍晋三首相が我が家に立ち寄り、素晴らしい友好関係が始まるのは、うれしいことだ」と書かれていました。

”It was a pleasure to have Prime Minister Shinzo Abe stop by my home and begin a great friendship.”

 これからはトランプ氏のフェイスブックやツィッターを定点観測の対象にしなければいけないのかもしれません。同氏の場合、マスコミを通さず、情報を「直接、発信する」機会が増えていきそうだからです。

追記②:11月の安倍・トランプ会談がよくわかる週刊誌記事(『週刊文春(12/1)』)

 安倍首相もトランプ氏も語らない会談の中身は何だったのか?

 非常に気になるこの疑問に関して、今週発売の『週刊文春』(12/1)ではジャーナリストの山口敬之氏が「安倍・トランプ非公開怪談 全内幕」と題してこの問題に切り込んでいます。

 一読してみて、いろいろな疑問に合点がいくところが多かったので、この記事を紹介してみます。

 著者の山口敬之氏は元TBSワシントン支局長で、2016年にフリーランスとなった方です。著書『総理』(幻冬舎刊)では、安倍総理が演説草稿を読み聞かせてくれた等の逸話も紹介。総理とは近い距離にいるジャーナリストと見られています。

 今回はその見所をQ&A形式で紹介してみます。(「」内は引用)

疑問1:安倍首相とトランプ氏が会談の中身を話せないのはなぜ?

⇒来年1月まではオバマ氏が大統領なので、ホワイトハウスは、トランプ氏と安倍首相に「アメリカに二人の大統領がいるかのような状況は作らないでほしい」と要望。その結果、安倍総理が一民間人のトランプ氏の自宅を訪問する、という形式になった。会談する人数も最小限。予定時間も2時間から45分に短縮された。

疑問2:トランプ氏が安倍総理とだけ先に会談したのはなぜ?

⇒各国首脳を差し置いて安倍首相と会談した理由は二つ。トランプ氏が「強いリーダーが好き」であり、「安倍の外交経験を高く評価している」から。12年以来、高支持率をキープし、各国首脳と会談を重ね、それぞれの首脳のキャラを熟知している安倍首相はトランプ氏にとっても重要な「”情報ソース”」だから。

疑問3:トランプ人脈がなかったのにどうして会談できたんだろうか?

⇒外務省はヒラリーシフトだったが、佐々江賢一郎駐米大使がトランプ人脈構築を進めていた。佐々江さんに支えてもらった・・・というわけです。

疑問4:やっぱり米軍駐留負担増を要求されたのか?

⇒会談内容は不明だが、山口氏のつかんだ情報では自衛隊の役割の「質と量を増やすこと」や、GDP比1%という防衛費枠の変更あたりが主たる話題になったとのこと。米軍駐留費増の話題はメインではなかったようだ。

疑問5:商務長官のウィルバー・ロスはTPP賛成じゃなかったのか?

⇒記事内に理由は書かれていないが、どうも、現在はTPP撤退側に鞍替えしたらしい。

疑問6:息子夫婦(イヴァンカ氏とクシュナー氏)、出しゃばりすぎでは?

⇒会談の席にいたのは初めの時だけで、後はトランプ+マイケル・フリン、安倍+通訳の四名で話した。

疑問7:どうせ、トランプって暴言おじさんなんでしょ?

⇒会談の席ではまともなビジネスマンとして応対していた。そのため、会談後の安倍首相も「笑顔とジョークを絶やさないフレンドリーな人」「人の話を非常によく聞く人」とコメント。

トランプ・安倍会談のどこが大事なポイントなのだろう?

 あまり書くとネタバレが行き過ぎになりますので、このぐらいにしておきますが、筆者は、日本の首相だけが会見できていることと、米軍駐留費ではなく、日本の防衛費負担のほうが主たる話題になったらしい、という二点に注目しています。

 トランプ氏には実際の外交経験はないので、同盟国の総理に外交経験が豊富であれば、非常にありがたい、という話になるわけです。その意味では、”安倍政治を許さない”云々の議論とは別に、長期政権を敷いて各国首脳と長くやりあってきた首相がいることが日本にとって有利な材料になりうるわけです。従来の日本では首相の賞味期限は1年+αとされていたので、豊富な外交経験を持つ前に消えていたのですが、長期化したことが意外なプラスを生む可能性があります。

 後者に関しては、筆者のブログ記事でも「米軍駐留費は単に貢いでいるだけのお金だから、防衛費を増やして自衛隊に投資し、アメリカの防衛企業から装備を買ったほうがマシだ」と書きましたが、流れとしては日米両国にプラスが出る路線に向かいつつあるのかもしれません。

 ただ、「トランプ氏は話をよく聞く」と述べた安倍首相は、その後、TPP離脱宣言で見事にカウンターパンチをくらってしまいました。やはり、暴言おじさんの本性自体は消えていないので、油断禁物です。日米同盟を巡っても、思わぬ反撃が出てくる可能性は残っています。

 筆者は、イヴァンカ氏とクシュナー氏についても「大統領家族の政治介入になりうるのでは」と考えていたのですが、すぐに退席したのならば、一定の節度はわきまえたアクションをしていたことになります。