トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

インドのモディ首相ってどんな人? なぜ日印原子力協定が必要なのか?

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(インド大統領府 WIKI画像)

  インドからナレンドラ・モディ首相が11月10日~12日までという日程で来日しています(日印首脳会談+天皇陛下会見あり)。

 筆者は大統領選とトランプ氏ばかりを追っていたので忘れていたのですが、こちらも非常に大事なイベントです。

 ドゥテルテ氏、スーチー氏、ナザルバエフ氏の来日について書いたのに、モディ首相だけ記事がないとバランスを欠くので、今回はこの人について書いてみます。

 トランプ大統領出現でアメリカに不確定要素が増えました。今後、日本にとってアジアの大国であるインドとの関係を強化することは、非常に大事になりそうです。

(※この記事では、2017年に新たな情報を追記しています)

ナレンドラ・モディ首相の経歴とは?

 写真で見ると、モディ首相は白ヒゲのかっぷくのいいおっちゃんに見えます。街のどこかのお店に座っていそうな風貌です。

 実際、カースト的には下のほうから一生懸命働いて出世した人なので、庶民派ですし、インディアン・ドリーム(仮にそう呼びます)を実現した人のように思えます。

 インドの家は子だくさんのところが多いのですが、モディ氏には6人の兄弟姉妹がおり上から3番目で生れたようです。中流家庭出身。大学では政治学を専攻。学生の頃はチャイを売って暮らしていたとも言われています。

 その経歴を見ると、以下のような流れです。

  • 1950年:9月17日にグジャラート州ヴァドナガルにて誕生。
  • 1974年(24歳): 民族奉仕団(RSS)に入団(後、学生代表になる)
  • 1987年(37歳): インド人民党(BJP)のグジャラート州議会議員に選出
  • 1988年(38歳): BJPグジャラート州支部長
  • 1995年(45歳): BJP書記
  • 1998年(48歳): BJP幹事長
  • 2001年(51歳): グジャラート州首相
  • 2014年(64歳): インド首相就任

 こうして見ると、51歳で州首相、64歳で国の首相になったので、政治家の経歴としてはちょうどよいぐらいの出世ペースかもしれません。

 トランプ氏やヒラリー氏のように70歳ぐらいで国のトップになると健康問題が発生するリスクがあるからです。

 人口6000万人のグジャラート州で三期、14年ほど州首相をした頃には電力や水道等のインフラ整備に尽力し、外資を受け入れて経済成長を実現しています(電力と水が途絶えるようなところに外国企業は入りにくいので、この二つの政策はつながっている)。行政改革や汚職を減らす取組み等を進めていました。

 選挙期間中には「雇用を生み出す海外直接投資を歓迎する」と繰り返し、グジャラート州の成功モデルを全国に広げることを訴えていました。当時、モディ氏が掲げた「『優れた統治』と『開発』」というスローガンは、当時の国民の要望に一致し、総選挙に大きく勝利。日経ヴェリタス(2014/4/13:10面)は当時のインドの状況を「シン政権ではインフラ整備が停滞し、国内では、100を超える大型プロジェクトが滞っている。原因は非効率な行政だ。役人の汚職が絶えず、認可業務などの遅れはざらだ」とも論じていました。

 モディ氏が州首相だった頃、2002年にグジャラート州でヒンズー教徒とイスラム教徒間の暴動が起き、1000人以上のイスラム教徒が死んだのに同氏は暴動を抑えなかったなという話が14年の総選挙の前に英字新聞に出てきたことがありますが、首相就任後、イスラム教徒を差別した話は聞かないので、これはよくあるアンチキャンペーンだったのでしょう。

 選挙中は1800回ほど演説をこなし、首相になってからは朝5時~夜12時まで働いているとも言われています。金銭スキャンダルは特になく、人格的には真面目な人だと言われています。

今のインドの経済成長率はどの程度?

 モディ首相の就任後、インド経済はどうなったのでしょうか。本年5月31日付の日経電子版「インド2年連続7%成長 15年度7.6%、消費がけん引 」では以下のように報道されています。

 インド経済が2年連続で7%台の成長となった。2015年度の実質国内総生産(GDP)成長率は7.6%で14年度の7.2%から加速し、中国を大幅に上回った。

 ・・・

(インドでは)GDPの6割弱を占める個人消費が成長を支える。15年度の個人消費の伸びは7.4%で14年度の6.2%から上昇した。15年度の新車販売台数は8%増で2年連続で増加。乗用車最大手のスズキ子会社マルチ・スズキは15年度に過去最高益を更新した。米調査会社IDCによるとスマートフォン(スマホ)の15年出荷台数は14年比29%増え、年1億台を超えた。

  「7%成長か~。すごいな~」と思いますが、インドでは8%以上を高成長と見る人もおり、企業が抱える過剰設備や借金が投資を鈍らせているとの意見もあるようです。

 その後、2017年に入り、2017年の実質GDPの成長率は7%になったと各紙で報じられています。 

 高額紙幣廃止など、突然の政策が出てきたり、その信憑性に疑問が呈されもしていますが、モディ政権開始後、インド経済は成長軌道に乗っており、政権の実績としては良好な数字が出ています。

日印原子力協定が必要な理由と従来の行き違い

 このたびのモディ首相と安倍首相との会談では、以下の合意がなされました(外務省「日印首脳会談」)。

  • アジアの海洋安全保障環境のための日印協力
  • 「日印新時代」の象徴案件であるムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道は18年着工、23年開業を目指す。
  • 日本の救難飛行艇US2の輸出のための協議を続ける
  • インドの製造業の発展を支援

 そして、その中でいちばん、大きな案件が日印原子力協定です。

 経済成長が続くインドでは電力供給が不足しているので、原子力発電所の建設に関して、日本に協力を希望していました。

 インドは32年までに原発の発電能力を10倍に増やす計画があるため、日本政府は、原発の計画段階から建設、補修・点検まで一括してパッケージとして輸出することを考えたわけです。

 しかし、原子力に関しては日本とインドにスタンスの違いがあり、長年、議論がまとまらなかったのですが、今回、これが着地したことで両国の関係より強化されそうです。

 どのようにスタンスが違うのでしょうか。

 インドは核兵器を保有し、自国の安全保障のために20世紀にたびたび核実験を行ってきたので、そもそも、核拡散防止条約(NPT)に参加していません(筆者は、インド大使館で勤務している方に話を伺ったことがあるのですが、その時も「米英仏露等にだけ核保有を認めるNPTは偽善的だ」と主張されていました。NPTは「俺たちは核を持つが、お前はもつな」というジャイアン的な仕組みなので、その方の主張自体は当たっています)。

 ところが、日本は「被爆国」として非核三原則を唱道し、NPTを非常に重視しています。今まで、首相どうしで何度も会談し、外交交渉をしていたのですが、この分野ではどうしても話がまとまらなかったのです。

 今回の会談では、NPTに入らないインドに対しても日本は原発建設に協力するが、核実験再開時には協力を停止する、という形で日印の原子力協定が結ばれました。

 長年の懸案事項が整理されたので、今後、日印の関係はスムーズになるのではないでしょうか。

※日印原子力協定の主たる内容は以下の通り

 (寺林 裕介/外交防衛委員会調査室「日・インド原子力協定―国会提出に至る経緯と主な論点―」)。

  • ①専門家の交換、②情報の交換、③核物質、資材、設備及び技術の供給、④役務の提供及び受領等の方法により、原子炉の設計、建設、運転のための補助的役務、保守活動及び廃止措置等が可能になる(第2条2)。
  • 日本からの協力は平和的非爆発目的に限られ、本協定に基づいて移転された核物質等は、核爆発装置とその研究のために用いてはならない(第3条1、2)。
  • 本協定下ではIAEA保障措置が適用されていることを要件として協力が行われる(第4条1、2)。
  • 改正核物質防護条約に従い、核物質や設備等の防護措置をとる
  • 核物質等は、供給国から事前同意が得られる場合を除き、第三国への移転が禁止される(第 10 条)。
  • 本協定は発効後 40 年間効力を持つ。一方の締約国が通告しない限り自動的に 10 年延長(第 17 条2)。

インドは親日国 中国とは違って歴史認識問題なし

 インドは長年の親日国です。インド人の中には、日本軍がインド独立の英雄チャンドラボースとともにイギリス軍と戦ったことを覚えている方もいます。

 筆者がインド大使館に勤務されている方からお話を聞いた時、その方が冒頭に言われたのは、インパール作戦で日本が戦ったことを讃える話でした。

 というわけで、インドと日本との間には「歴史認識問題」なるめんどくさい話はありません。「遠交近攻」という言葉がありますが、近い国とはバトルになりやすく、距離の遠い国とは友好国になりやすいので、中国を牽制する上でも、日本はインドと関係を強化したほうがよいとも言えます。

 今回の会談では「アクト・イースト政策に基づき,インドはASEAN諸国に協力を進めており,連結性のプロジェクトを日印で進めることが重要と考えている」というモディ首相の話も出ていました。

 経済面だけでなく、安全保障面でも、今後、関係強化を進めていく余地はたくさん残っています。

追記:日印原子力協定が発行するも、東芝は原発事業から撤退

 6月7日、日印原子力協定が参院本会議で可決・承認されました。

 両国で公文書が交換され、原子力規則の改正を行った後、今夏にも同協定は発効し、日本からインドへの原子力技術と核物質の輸出が可能になります。

 しかし、残念ながら、東芝はウェスティングハウスの減損計上に伴う経営危機により、海外の原発事業から撤退をしてしまいました。法的には原発輸出は可能ですが、その担い手となる最大手企業が退場するという皮肉な結末となっています。

 16年にウエスチングハウスはインドで原子炉6基を建設する計画を立てていたのですが、この計画が現実化するかどうかは、不透明になりました。

 そのため、今後、インドに日立製作所や三菱重工業等の日本企業が、今後、原発建設で参加するのかどうかが、注目されています。