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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

【豊洲盛り土なし】結局、何が問題? 石原VS小池、責任者懲戒、コスト等について  

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(築地に近い勝鬨橋。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  豊洲市場に盛り土がなかった問題に関して、小池都知事の予告通り、11月1日に第二弾の調査結果が発表されました。今後の懲戒処分や石原慎太郎氏の責任問題などが気になる所です。

  産経新聞(11/2:1面)では、盛り土なし問題の責任者として、以下の八名の名が掲載されています。

  • 元中央卸売市場長:岡田至(退職)、中西充(現副知事)
  • 元管理部長:塩見清仁(現五輪・パラリンピック準備局長)
  • 元市場整備部長:宮良真(退職)
  • 元基盤整備担当部長:臼田仁(退職)、加藤直宣(現建設局道路計画担当部長)
  • 元施設整備担当部長:砂川俊雄(退職)、久保田浩二(現財務局建築保全部長)

 現時点では、都知事と調査委員会の側が責任者の名前を挙げているだけで、この八人からの反論や弁明の内容が公けになっていないので、一方的な断罪は避けたいところですが、今後、この両者には公の場で議論して決着をつけていただきたいものです。

 ところで、豊洲問題は都民にとってはホットな話題ですが、筆者はたまたま、政治に無関心な知人と会話をしていた時に、「そもそも豊洲問題って何?」という方もいることに気が付きました。

 「盛り土なし」が原因で築地市場の移転問題が全国報道されましたが、よく考えてみると、各県の方々の中には「何なの、それ?」という反応の方もいるのではないでしょうか。このネタは、沖縄県や北海道など、東京の遠方にいる日本国民にとって重要度は高くないので、情報が後追いになった方がいてもおかしくはないからです。 

 というわけで、今さらながら、人に聞けない基礎知識の一つとして豊洲問題の経緯と気になる論点についてまとめてみます 

そもそも、築地市場がなぜ豊洲に移転されるのか

 東京都中央区築地にある築地市場は、都内に11箇所ある公設の卸売市場の一つ。民間の卸売市場よりも大きな市場が必要だという観点から、1935年に設立されました。主たる取扱い品は、野菜や果物、生鮮・冷凍の魚介類、各種加工品等です。

 約23ヘクタールの規模は東京ドーム五個分に相当するともいわれ、「2013年の一日あたりの取扱数量は、水産物が1779トン(15億5千万円)、鳥卵・漬物を含む青果物が1142トン(3億1900万円)」。全国的にトップの取扱数量を誇り、水産物では世界最大級の中央卸売市場だとも言われています(朝日新聞HP記事)。

 長らく利用されてきたのですが、取扱い規模の拡大から築地市場が手狭になっただけでなく、トラックの駐車スペースが狭く、施設の老朽化している等の問題があったので、この市場は移転されることになりました。

 市場を営業しながらの再整備は難しいため、東京都は2001年に江東区豊洲地区にある東京ガス工場の跡地(こちらは約40ヘクタール。東京ガスが1951年~1988年まで使用)への移転を決断。2008年には豊洲の移転予定地で環境基準を上回るベンゼンやシアン化合物が見つかりましたが、東京都は762億円の予算で土壌汚染対策を行い、2014年末に豊洲市場の開場時期を2016年11月上旬と定めました。

 東京都中央卸売市場のHPを見ると、移転先の要件として、以下の三点が挙げられています(※Q&aの「なぜ移転整備が必要なの?」の要旨)

  • 〔用地〕高度な品質管理・衛生管理ができる卸・仲卸売場を保持する。その上に駐車場や荷さばき場を配置するためには約40ヘクタールの敷地が必要
  • 〔交通〕高速道路や幹線道路へのアクセスが用意であること。
  • 〔商圏〕築地市場が築いた商圏に近い地域であること。機能・経営面での継続性を維持すること。

 当時、豊洲地区、晴海地区、有明北地区、石川島播磨重工業豊洲工場跡地、中央防波堤内側が候補に挙がり、そのうち、前掲の三要件を満たす地域が豊洲しかなかったとされています。

 石原氏は週刊新潮のインタビュー(2017/3/2号 2/23発売)では環境面の安全性を都庁幹部に確認し、議会でも論議されたことを指摘しています。環境面に配慮したことになっているのですが、現在、これが不十分だったのではないかと疑われているわけです。

豊洲の土壌汚染のレベルはどの程度?

 東京都中央卸売市場HP内では(「豊洲新市場予定地の土壌汚染はどうするの?」では、土壌の広さと深さの両面から、汚染のレベルが解説されています。

  • 環境基準を超える地点は土壌または地下水で1475地点(36%)。このうち1000倍以上の汚染物質が検出されたのは、土壌で2地点、地下水で13地点。
  • 平面方向の調査で汚染物質が検出された1,475地点で汚染状況を把握するために、ガス工場操業時の地盤面から水を通しにくい地層の上端まで深さ方向に1メートル間隔で土壌を採取して分析した。
  • そこで採取した11331検体のうち環境基準超の汚染物質が見つかったのは1986検体(17.5%)。このうち1000倍以上の汚染物質が見つかったのは土壌で2地点、地下水で13地点。

 調査後に、東京都は、広さ・深さの両面から見て、土壌全体にまで深刻な汚染が全般的に広がっているレベルではないと判断します。つまり、土壌汚染対策をすれば何とかなると見たわけです。

 豊洲に「盛り土」がないと何がまずいのか?

 こうした経緯で、東京都は土壌や地下水を浄化する措置を行います。そして、移転地の土の上に4.5メートルの「盛り土」を行い、アスファルトを敷いて対策することを決めました。

 こうした経緯で、問題の「盛り土」が出てきたわけです。

 もともと、都議会で民主党は環境面を理由に豊洲移転に反対しており、2009年には都議会の第一党になったので、移転は厳しくなりましたが、その後、都と関係者の合意と安全確認を経て移転賛成に転じます。

 民進党の蓮舫代表がわりと小池都知事には肯定的なのは、環境基準の厳格な適用が、自民党よりも民進党(旧民主党)寄りの政策だからなのでしょう。これは元環境相の小池氏のキャラが反映された政策だとも言えます。

 技術的には、今の土壌汚染対策は、「地表面に50cm以上の盛土をするか、3cm以上のアスファルトまたは10cm以上のコンクリートを敷設することで足りる」(東京都中央卸売市場HP)といわれています。理屈的には、盛り土がなくてもコンクリート敷設だけで十分だという論理もありえなくはなさそうですが、「盛り土をすると約束したのに、なかった!」という話なので、都にとって重大な信用問題が発生しています。

 小池都知事も9月23日の記者会見では、1)意思決定者、2)都の説明と実態との食い違い、3)盛り土がないと知っていた者がなぜ専門家に質問しなかったのか、という三点を問題視しています。

小池都知事VS石原慎太郎氏の行末

 毎日新聞の電子版では、豊洲問題に関して「小池知事の質問・全文 / 石原氏の回答・全文」(2016年10月25日)の両者が掲載されています。これは登録者のみ閲覧可能記事なので、その要旨を簡潔にまとめます。

 小池知事の質問の論点は以下の四点が代表的です(以下、この四点は筆者の分類なので、小池百合子氏の質問文に実際に書かれた項目の区分け【1~5】とは異なります)見やすくするため、小池氏の質問要旨を青緑、石原氏の返答要旨(⇒)を黒字で表記しました。 

【A:豊洲を移転整備先にした理由】(当時、他の検討先(晴海、有明北、石川島播磨跡地)があり、東京ガスも豊洲移転に否定的だったため)

⇒既定路線だった。この頃、移転先が豊洲だとは聞いていない

【B:土壌汚染対策費用に関する都と東京ガスの負担区分】(858億円のうち東京ガス負担分は78億円)

⇒石原知事は交渉せず、浜渦特別秘書が交渉した

【C:豊洲市場の事業採算性をどう判断したのか】

⇒担当者に任せていた

【D:土壌汚染対策(盛り土など)】(盛り土なしの報告の有無、報告者は誰で、どう対応したのか)

⇒専門的知見がないので分からない。担当者が専門家に聞いたり協議したりして判断すべきものだ。

 詳細を知りたい方は、毎日新聞の長い全文(無料登録すれば読めます)を見ていただきたいのですが、石原慎太郎氏の返答は曖昧です。都知事の決裁案件は膨大なので、専門家レベルの判断の案件にまで立ち入れない、と述べているわけです。

 一定の規模の組織で勤務した経験のある方は、この種の判断をする社長や経営幹部の姿を見たことがあるのではないかと思うのですが、それと同じようなことが都でも行われたわけです。決裁案件が多いとはいえ、豊洲移転はビッグプロジェクトなので、その重要性と比べた時、知事が十分に考えて関与していないように見えます。

 石原氏は、記憶がないのできちんと資料を調べてみてくれ、と答えたので、憤った小池知事は、詳細な調査を行うことにしました。そして、現在、中央卸売市場長や管理部長経験者などの幹部8名の責任者が名指しされています。

今後は、安全基準の遵守とコストとのバランス感覚が大事

 安全基準の遵守は大事ですが、豊洲移転を止めればコストが増えるので、その両者のバランス感覚がこれからは大切になるでしょう。

 豊洲市場の建物は完成しているので、築地移転を延期すると、都の試算では契約している電気・水道料金、警備費などは開場しなくても1日約700万円かかると見積もられています(毎日新聞「豊洲維持費1日700万円 五輪にも影響」2016年8月31日)

 同記事によれば、移転推進派の「築地市場協会」の伊藤裕康会長は以下の二点を指摘しているそうです。

  • 業者は分担して冷蔵庫棟2棟に約130億円、場内の無線LANに約30億円、冷凍設備に約23億円など、少なくとも数百億円を投資した。
  • 冷蔵庫棟は最低でマイナス60度まで冷やす必要があるため既に運転を始めているため「知事が要望を断れば、お先真っ暗」。

 さらには、東京五輪に向けて整備される環状2号線は「全長約14キロのうち約450メートルが築地市場跡地に整備され、一部が地下化される」ため、移転延期はこの高速道路の大会前開通の妨げになりかねません。

 すでに工事は完成しているので、豊洲移転そのものをナシにすることはできないでしょう。そうすると、それまでに投じたお金を全部パアにして、さらに予算を積み重ねるという愚策になります。そのため、この選択肢は取れません。

 結局、政策的に焦点になるのは、安全確認をしながら、いつ、豊洲移転を終わらせるのかという「時間の問題」だと言えるのではないでしょうか。

追記①:小池知事は豊洲移転を延期 市場業者の不安は高まっている

 11月7日は築地市場から豊洲市場への移転予定日でしたが、盛り土問題等によって移転延期となり、市場業者には延期に伴う負担が発生しました(「豊洲への移転延期 市場業者の不安が浮き彫りに」NHKニュースWEB 11月7日)。

「築地市場の豊洲市場への移転の延期を受け、東京都が市場業者を対象に設けた相談窓口には300件近くの相談があり、年末の資金繰りを懸念する相談も増えている」

(※築地市場内にある移転サポート相談室への)「相談件数は、水産物の仲卸業者を中心に300近くに上り、このうちおよそ4割が移転延期に伴う負担への補償に関する内容だ」

「業者の多くは、豊洲市場にすでに冷凍庫や水槽を設置し一部を稼働させているほか、新たに従業員を雇っているところもあり、費用負担が日に日に増している」「築地市場での営業が長期化する中、老朽化した築地の設備の修理や更新も必要な状況となり、当初は想定していなかった負担も発生しています」

  前節で取り上げた冷凍設備の負担などは深刻ですが、これらに対して、東京都は業者ヒアリング⇒有識者検討会という過程を経て補償の範囲や金額等を決める方針です。

 日経朝刊(2016/11/5:3面)では、小池知事は11月4日の記者会見で、今後、移転手続きには「安全性の検証、環境影響評価(アセスメント)、安全対策などの追加工事、国から認可を得る手続き」の四段階が必要との見解を示したと報じられています(それぞれの過程の時期が明示されていない。日経記事はアセスメントが長期化すると見ている)。

 盛り土問題の議論だけが異様に盛り上がった結果、豊洲移転が延期となり、その負担額が都民の税金から払われるという、非常にまずい展開になってきています。 

追記②:環境基準超の有害物質検出で豊洲地下水は再調査へ

 東京都が実施した豊洲の地下水モニタリングの最終調査結果が14日に公表されました(毎日新聞「地下水 有害物質ベンゼン、基準値79倍も検出」2017/1/14)。

 その要旨は以下の通りです。

  •  暫定値で「最大で環境基準値の79倍に当たる有害物質のベンゼンと、検出されてはいけないシアンが計数十カ所で検出された」「検出箇所が前回(8回目)の3カ所から大幅に増えた」
  • 「専門家会議の検証を踏まえ、調査方法の確認も含め、さらに再調査する」

 この記事では、過去の経緯について「地下水モニタリングは都が2014年から豊洲市場の観測井戸計201カ所で実施。8回目の調査で初めて、基準値の1.1~1.4倍のベンゼンと1.9倍のヒ素が、青果棟のある5街区で検出された。座長の平田健正・放送大和歌山学習センター所長は『ここの地下水は飲用にしないため、健康に影響しない』とした上で、『今後の推移を見守るべきだ』との見解を示していた」と説明しています。

 この件は他紙でも報道されていますが、読売記事(2017/1/15:朝刊1面)の解説では、環境基準超でも人体に健康被害が出ない理由の説明が掲載されていました。

 地下水の環境基準は、70年間毎日2リットル飲み続けることを前提に設定されている。そもそも、豊洲市場では地下水を利用しないため、中西準子・産業技術総合研究所名誉フェロー(環境リスク論)は「有害物質が揮発して地上に出て人が吸ったとしても、濃度は相当薄く、人体に健康被害が出ることは考えにくい」と指摘する。

 食の安全という恐怖心をかきたてるテーマでショッキングな「有害物質 基準超」という文字が各紙に踊りましたが、豊洲では地下水は使われず、飲まれることもないという現実を考えれば、これが健康被害に直結するわけではないようです。

 しかし、前回のモニタリング調査の結果と大幅に違う数字が出てきたので、「今までちゃんと調べたのか?」という疑問が出てきます。

 そして、2月28日には、東京都は築地市場に関しても土壌汚染のおそれや6棟の建物が耐震基準を満たさないこと等を報告する文書を発表しました。

 環境汚染や震災などの未知のリスク対策に励むこと自体はよいのですが、現実問題として豊洲と築地の双方をストップさせれば、単なる維持費の垂れ流しになってしまうので、これに関しては、築地を止めた際に発生する被害のほうを重く見るべきだと思うのですが・・・。

追記③:石原氏、小池知事を「不作為の責任」と激しく批判

 3月3日には小池百合子氏が14時、石原慎太郎氏が15時に記者会見し、豊洲市場移転に関して、新旧知事が論戦を開始しました。

 石原氏は「行政の責任は裁可した最高責任者にある」と自分の責任を認めながらも、小池氏を豊洲移転を止め、多額の損失を発生させたと批判しています(以下、産経ニュース〔2017.3.3〕の発言詳報からの抜粋)。これは不作為の責任「すべきことをしなかった責任」にあたる。「権限をもって豊洲に移転すべきだ」と論じました

「やるべきことをやらずにことを看過して、しかも日々、築地で働いている人を生殺しにしたままほったらかしにして、ランニングコストや築地で働く人への補償にべらぼうなお金がかかる、こんな混迷迷走の責任は今の都知事、小池さんにある」(【豊洲問題 石原元知事会見詳報(1)】3/3)

 そして、石原氏は中西準子氏(産業技術総合研究所名誉フェロー)らが「豊洲の現況は全く危険がない、なんで豊洲に早く移さないのか、風評に負けて豊洲がこのまま放置されるのは科学が風評に負けたことになる。国辱だ、世界に日本が恥をかくことになる」と述べたことを指摘しました(同上)。

 健康被害が出る可能性は極めて低いので、豊洲移転をストップし、業者に損害補償を行うのはつじつまが合わないと見ているわけです。

 筆者は石原氏の発言にも理があると思うのですが、実際問題、小池氏批判に終始した石原氏の印象はさほど良くないようです(ヤフーニュースのコメント等を見ると石原氏への失望や批判が非常に多い)。

 石原氏の前途はどうなるのでしょうか。