トランプ政権と日本・アジア 2017

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【米国株】F35とロッキードマーチンの株価の行方 ~ヒラリーとトランプの防衛政策を比較して~   

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(F35A戦闘機:出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  以前、「トランプ氏が共和党候補になってからロッキードマーティン社の株価が下がり続けている」という推測を書きましたが、同社の決算日(25日)が近いので、改めてこの話の詳細を書いてみます。

 ロッキードマーティン社(LMT)はアメリカ随一の防衛(軍需)大手企業で、ステルス戦闘攻撃機F35の主要な製造元となっていますが、この戦闘機はNATO諸国や日本などと国際共同開発が進められてきました。

 そのため、「同盟を見直せ」と叫ぶトランプ氏の当選は同社の経営にも大きな影響を与えます。無論、LMTはF35以外にも多くの仕事がありますが、F35は年100億ドル以上のビッグビジネス(米防衛予算)です。

 F35の受注の中核を担うのはLMTで、この戦闘機の売上は同社の売上の約二割を占めています(予定購入機数は2443機。費用は約3790億ドル)。

 トランプ氏の同盟見直し政策がF35の国際共同体制をぐらつかせた場合は、マイナスの影響が出てくる可能性が高いわけです。

 今回はそもそも、アメリカの防衛産業やLMT社、F35の国際共同開発と同盟政策との関係などを取り上げてみます。

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そもそもLMTって何? 軍需企業ってヤバくないの?

 初めからマニアックな話になっているので、一般目線で、そもそもの説明から始めます。防衛産業やロッキード・マーティン社、F35等についてネットで説明は出ていますが、何となくわかりにくいものが多いからです。

疑問①:軍需企業は良いのか悪いのか?

 ロッキードと聞くと、歴史の教科書で見た収賄事件(ロッキード事件:田中角栄逮捕)を思い出す方もいるかもしれません。

 こうした防衛産業は軍産複合体批判などもあって、日本ではよくないイメージが先行しています。アニメでもよく悪役にされていますが(例:ガンダムユニコーン等)、実際のところ、日本を守っているのは、米国の防衛産業が生んだ高性能な装備です。

 例えば、F15戦闘機はボーイング社からのライセンス生産、ミサイル防衛システムはレイセオン社、F16戦闘機はロッキード・マーティン社がつくっています(自衛隊のF2戦闘機はF16の日本向けバージョン)。

 実際は、日本国民1億2千万人は米国の防衛産業の恩恵にあずかっており、80年代以降の日本の平和はF15とF16の大量導入で守られたという説もあるのです。日本ではアメリカの防衛大手企業について、あまりよく言う人はいませんが、彼らがつくった装備がなければ、日本人は今頃、中国語や朝鮮語、ロシア語を話さなければいけなくなっていたのかもしれません。

 むろん、軍需系企業には、戦争で利益を増やす危険な面もありますが、日本やNATO、オーストラリアなどの「同盟国の防衛」に関しては、アメリカ軍需大手は最高度の技術で多大な貢献を果たしてきました。

 実際に、本年9月にも、自衛隊が用いるF35Aのお披露目の式典では、防衛省や自衛隊の代表も交えて「この戦闘機は今後の日米同盟の象徴だ」というPRがなされています(LMT社HP)。同盟と言っても、それを支える装備がなければお題目になってしまうので「F35は日米同盟の象徴である」という点で、LMT社と日本政府側の双方が同じ見解を共有しているわけです。

 F4戦闘機の役割終了に伴い、日本ではF35AをLMT社から購入することにしたのですが、こうした経緯を考えると、この問題に関しては、軍隊と装備には「国民を守る」という肯定的な面と、「侵略に悪用される危険性がある」という怖い面があることを、功罪を踏まえて冷静に見直すことが大事です。

疑問②:ロッキード・マーティン社(LMT)はどんな企業?

 LMT社はアメリカの最大手の防衛系企業です。

「あれっ。ボーイングじゃないの?」と思われた方もいるかもしれませんが、ボーイングの場合、約7割が民間向けの売上なので、軍事系の装備生産だけを見たら、LMTのほうが大きいのです。15年末の数字で見ると、ボーイング社の売上は961億ドル。そのうち軍需部門は31.4%(約300億ドル)ですが、LMTの売上高は461億ドル(『2016夏号 米国株速報』)。

 要するに、LMTの売上の約8割は軍需部門なので、こちらのほうが軍需主体の企業なのです。LMTはアメリカナンバーワンの防衛産業と言っても過言ではなく、ここで生み出される装備が世界の安全保障と平和、戦争に非常に大きな影響を与えています。

 そして、2017年以降、LMT社が中心になって各国に送るF35戦闘機が、NATOと日本、韓国、オーストラリア等の平和を守ることが期待されているのです。

疑問③:LMTと同ジャンルの有名企業は何?

 LMTがつくる装備は空軍と宇宙に関わるものが多いので「軍需主体の航空機メーカー」(『米国株速報』)という説明がピッタリ当てはまります。ジャンルが近いメーカーはノースロップ・グラマン社(NOC)とレイセオン社(RTN)ですが、売上高の規模にはかなりの差があります。

【売上高】(単位はドル。端数切捨て。13年=13年12月)

  • LMT:453億(13年)⇒456億(14年)⇒461億(15年) 
  • NOC:246億(13年)⇒239億(14年)⇒235億(15年)
  • RTN:237億(13年)⇒228億(14年)⇒232億(15年)

(※LMTとRTNの出所は『米国株速報』、NOCのみ同社HP。以下同)

 ざっくり言うと、LMT社の規模はノースロップ・グラマン社(NOC)とレイセオン社(LTN)を足したぐらいの大きさです。この三社の純利益を比べてみましょう。

【純利益】(単位はドル。13年=13年12月)

  • LMT:29.81億(13年)⇒36.14億(14年)⇒36.05億(15年) 
  • NOC:19.52億(13年)⇒20.69億(14年)⇒19.9億(15年)
  • RTN:20.74億(13年)⇒22.44億(14年)⇒20.74億(15年)

 こうして見ると、グラマンやレイセオンは規模でこそLMTより小さいものの、純利益の比率が高いことが分かります。では、一株当たり利益(EPS)はどうでしょうか。(※EPS=当期純利益/発行済株式総数。増資による株式数増を考慮した「希薄化後EPS」で比較)

【一株当たり利益】(希薄化後EPSでの比較。単位はドル。13年=13年12月)

  • LMT:9.13(13年)⇒11.21(14年)⇒11.46(15年) 
  • NOC:9.35(13年)⇒9.75(14年)⇒10.39(15年)
  • RTN:6.16(13年)⇒7.18(14年)⇒6.8(15年)

 LMTが一番ですが、グラマンのEPSもなかなか高水準です。

 そして、15年末の株価で1株当たり利益に対して株価が何倍まで買われているのかをNasdaq.comで見てみると、その指標であるPERは以下の値でした。

  • LMT:20.11(15年)⇒19.87(16年予測) 
  • NOC:23.6(15年)⇒19.62(16年予測)
  • RTN:19.62(15年)⇒20.05(16年予測)

 PERは20倍前後と見られていますが、この三社は防衛予算で受注する安定企業なので、高めの数字になるのでしょう。現在、日本企業のトヨタでも12.3倍程度(ロイター)なので高く見えますが、産業特性から考えれば、アメリカの防衛産業は、もともと高めにPERが出る業界なのではないかと思います。

F35は、結局、どこが「売り」なのか?

 企業を比較しているうちに、だんだん株の用語が増えてきたので、もとの一般目線での書き方に戻しますが、そもそも、このF35戦闘機というのは、どういう戦闘機なのでしょうか。

疑問①:F22もF35もステルス機だが、いったい、何が違うんだ?

 レーダーに映らないステルス技術は湾岸戦争の時に爆撃機に採用され、その後、戦闘機にも活かされるようになりました。

 その結果、誕生した世界最強の戦闘機がF22ラプターです。アメリカでは、このラプターを海外に売るか売らまいかという議論が繰り広げられ、最後は「アメリカが最強国の地位を維持するためには、売らないほうがよい」という落ちになります。

 しかし、同盟国にもステルス機のニーズがあるので、何か対策が必要でした(欧州のユーロタイフーンという高性能戦闘機でも完全なステルス性を確保できていない)。

 こうしてステルス機の新バージョンの開発が始まりました。

 そして、「新しい戦闘機をつくるなら、新しい実験をしなければ」という話になり、F35ライトニングにはF22とは違うコンセプトとミッションが定められます。

 ざっくり言えば、F22戦闘機は制空権を確保するための最強の戦闘機です。

 そして、F35は空中戦をしながらも、高性能のレーダーや情報ネットワークを生かして対地、対艦への攻撃をこなす多用途の戦闘攻撃機です(空中戦能力はF22に劣る)。

「それって、要するに何でも屋ってこと?」と思われた方もいるかもしれません。

 制空権確保の空中戦能力はF22が最強ですが、F35はどちらかと言えば、空中戦の後、地上や海上の目標を攻撃することに力点が置かれているので、それは間違いではありません(「多用途戦闘機=マルチロールファイター」なので、言葉の意味合い的には、”何でも屋の戦闘機”ということになります)。

 要するに、アメリカとしては、空中戦で最強の能力を持つ機体(F22)は同盟国にも売れない。しかし、空中戦能力はそこそこで、対地・対艦攻撃に強みのある機体を同盟国とシェアすることにしました。そして、これを国際共同開発で完成させようとしたのです。

疑問②:F35って結局、強いのか? 弱いのか?

「ふーん、じゃあ、さほど強くないってわけ?」という声もあろうかと思いますが、この機体の戦闘能力には、恐らく、従来の戦闘機では太刀打ちできないでしょう。

 LMT社やNOC社の動画を見ると、このF35ライトニングの恐るべきコンセプトが鮮やかに描かれていました。その内容をざっとまとめると、以下の通りです。

  • 敵のレーダー網をかいくぐって気づかれぬ間に敵基地上空に侵入可能。
  • ステルス機の特性を生かし、気付かれる前に敵機を先制攻撃で撃墜。
  • 高性能のレーダーを持つ数機のF35が四方八方に電波を飛ばし、空中から地上までの敵を全て把握。敵機の情報をA機、B機、C機も共有し、攻撃することが可能なので、撃ち漏らしが出にくい。
  • 高速移動しながらも各機が発見した敵・味方の識別情報を共有し、同じ情報を基に戦っているので、間違えて味方にミサイルを発射する可能性は低い。
  • 敵はF35を発見できないまま撃墜され、やっと発見した敵機が後ろから攻撃をしかけても、F35は前方に向けて発射したミサイルをUターンさせて敵機を逆に撃墜

 (※参照動画は以下の二つ)

  1.  https://www.youtube.com/watch?v=Q7ufjQ6Eyj8
  2.  https://www.youtube.com/watch?v=e1NrFZddihQ

 このコンセプトが実現したら、ステルス能力のない戦闘機の群れがF35の編隊に対抗するのは、かなり難しいでしょう。見えないところから、高性能ミサイルの第一波攻撃を必ず受けてからの不利な戦いを強いられるからです。

 F35は空中戦もできますが、360度を見渡せる高性能の遠距離レーダーで敵機を発見し、気づかれる前に先制攻撃をしかけてくるので、空中戦以前に敵機に対して「お前はすでに死んでいる」という北斗の拳のような状態を作り出してしまうわけです。

疑問③:F35国際共同開発とトランプ氏の同盟見直し論に何の関係があるんだ?

 アメリカは、2017年以降、F35戦闘攻撃機をヨーロッパに配備してロシアを牽制し、アジアに配備して中国と北朝鮮を牽制しようとしています。

 冷戦が最も厳しかった80年代をF15とF16配備で乗り切ったように、F35配備によって、21世紀初めの世界の安定を築くことが、もともと、このF35の狙いでした。そして、同盟国と国際共同開発しながら、この機体の実用化を目指していました。

 F35の開発は、LMT社がいちばんメインですが、他のレイセオン社やノースロップグラマン社も当然、関わっています。そして、ヨーロッパ企業も参画し、日本で機体整備等が行われることになっています。

 ここで同盟をゼロベースで見直そうというアメリカ大統領が出てきたら、どうなるのか。既存の体制が崩壊する危険性が高まりますし、今後の整備計画や各国に引き渡す際の値段交渉などには、大きな影響が出るはずです。

 株価を見ると、LMT社の株価が8月10日を頂点にして先週まで下がり続けています(下図はヤフーファイナンスのLMT株価をエクセルで図表化)

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 NOC社やRTN社はあまり変わらないのですが、株価の下がり具合は、LMT社が激しいのです。三社の株価を見ると、LMT社がNOC社に近づいてきています(青線がLMT社、赤線がNOC社、緑線がRTN社)。

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 LMT社の株価が下がっている理由に関しては、ほかにもいろいろあるのかもしれませんが、同じ業界で似た分野で仕事をしているNOC社とRTN社はあまり株価が下がっていないので、筆者は、トランプ氏当選による同盟見直しが、LMTの主力商品のF35の販売に悪影響を与えることを恐れての値下がりではないかと考えています。

 米国の防衛予算で見ると、F35にかかるお金は16年度で116億ドル、17年度で105億ドルです。売上461億ドルのLMT社から見ても、この取引は巨額のビジネスですし、そのために大幅な投資をかけています。トランプ氏当選で同盟が崩壊するシナリオが現実化した場合、このビジネスの行末が危ぶまれるので、大統領選の不安がLMT社の株価に影響を与えているのではないかという気がしてなりません。

※筆者なりにいろいろと考えてみましたが、株の専門家ではないので、いろいろな間違いがあるかもしれません。いずれにせよ、投資は自己責任なので、大統領選後を見越して何かアクションを起こすのならば、各種のデータを集めて、投票日までにしっかりと対策を練らなければいけないでしょう。