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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

台風10号の東北上陸で2016年の農業被害額は2000億円に到達?→3800億円(10/31情報)

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「ライオンロック」という名前の通り、信じがたい軌道を取った台風10号。画像出所はWIKIパブリックドメイン画像。「2016年の台風」というページで他の台風と軌道を比べると、進路の異常さが浮き彫りになる。

 前回の台風9号は首都圏を直撃し、北上しましたが、台風10号は偏西風などの影響で進路がゆがみ、カーブボールのように首都圏をかわして30日に東北地方に上陸しました。こうした不思議な軌道をとって東北に上陸するのは、1951年以降の観測で初めてだと言われています。

 しかし、東北地方は農作地帯なので、本年のお米の出来が心配になります。本年は、熊本の地震があり、台風9号と10号が来ているので、こうした風水害を全部足すと、日本の農林水産業に大きな被害が出るのではないでしょうか。

台風10号東北上陸で農林水産関連の被害総額は2000億円超?

 内閣府が作成した「平成28年熊本地震の影響試算について」という資料では、熊本地震の被害額が2.4~4.6兆円と見積もられています(熊本・大分県での社会資本・住宅・民間企業設備の毀損額)。

 そして、このうち、農林水産物の被害は熊本県だけで1022億円。大分県の5億円分を足すと1027億円だと報道されていました(毎日新聞5/6「農業被害1000億円超 田畑地割れ深刻」)。この数字は熊本県HPに掲載された5月12日の知事記者会見でも出てきますが、この質疑では750億円が農業の被害と見なされていました(「質疑応答 平成28年熊本地震について・2」を参照)。残りの270億円は漁業や林業の被害と思われますが、その上に台風の被害が上乗せされるので、本年の農林水産物の被害は2000億円を越えてもおかしくはありません。 

2016年の風水害の被害の内訳を見てみると・・・

 農林水産省HPには「平成28年度災害」の農産物の被害額の試算が出ており、適宜、その金額が改定されています。9月16日時点のデータを見ると、本記事執筆時点では分からなかった被害額の全体像がかなりクリアになっていました。それぞれの災害の農産物被害額(試算額)はどのぐらいの規模なのでしょうか。

鳥取地震による農林水産関係の被害額(10/31更新)

 10月31日時点での鳥取地震の被害額の総額は8.4億円です(農作物等:5.6億円 農地・農業用施設関係:1.2億円 林野関係:1.6億円)。

熊本地震による農林水産関係の被害額(10/13更新)

 10月13日時点での熊本地震の被害額の総額は1491.2億円です(農作物等:349.7億円 農地・農業用施設関係:713.2億円 林野関係:395.4億円 水産関係:32.8億円)。

台風7号による農林水産関係の被害額(10/27更新)

 台風7号の被害額は累計95.1億円(農作物等:34.1億円 農地・農業用施設関係:12.2億円 林野関係:48.4億円 水産関係:0.3億円)と試算されています。

(※本記事を初公開した8/29では21.9億円(林野関係:18.9億円など)、9/2のデータでは累計42.6億円(農産物等10.3億円、農地・農業用施設関係10.8億円、林野関係21.4億円)と試算されていました)

台風第11号と第9号による農林水産関係の被害額(10/27更新)

 台風第11号及び第9号による被害額の累計は333.5億円(農作物等:113.8億円 農地・農業用施設関係:124.7億円 林野関係:80.3億円 水産関係:14.8億円)。

台風第10号による農林水産関係の被害額(10/27更新)

 台風10号の被害額累計は885.6億円(農作物等:256.4億円 農地・農業用施設関係:243.9億円 林野関係:201.8億円 水産関係:183.5億円)。

台風16号による農林水産関係の被害額(10/31更新)

 台風16号の被害額は累計237.7億円(農作物等:36.4億円 農地・農業用施設関係:109.9億円 林野関係:86.4億円 水産関係:5億円)。

6月6日から7月15日までの豪雨の被害による農林水産関係の被害額(8/4)

 特に数字が大きいのが6月6日から7月15日までの豪雨の被害です。こちらは累計で575億円にものぼります(農産物等:7.6億円、農地・農業用施設関係:355.9億円、林野関係:208.3億円、水産関係:3.2億円)。

1月の大雪による農林水産関係の被害額(3/1時点の情報)

 これに1月の大雪の被害である190.7億円(農産物等:86億円、水産関連:103.7億円 林野関連:1億円)が加算されます。

2016年の風水害による農産物被害額の累計は3800億円?

 この被害額を全部足すと、約3800億円になります(正確に言えば3817.2億円)。

  • 鳥取地震:8.4億円
  • 熊本地震:1491.2億円
  • 台風7号:95.1億円
  • 台風11号と9号:333.5億円
  • 台風10号:885.6億円
  • 台風16号:237.7億円
  • 6月6日~7月15日までの豪雨:575億円
  • 1月の大雪:190.7億円

 本記事を初公開した時点での累計額は2000億円に近い数字でしたが、その後、調査が進み、未計上だった被害も足したら3800億円になったわけです。

3800億円は政府が毎年コメ農家に払った補助金2000億の1.9倍の規模

 累計で3800億円の農林水産物被害が出ているのですが、これは減反維持のために政府がコメ農家に払ってきた補助金の総額2000億円の1.9倍に匹敵します。農業評論家の山下一仁氏は1970年から2009年までで7兆円の補助金がコメ農家に出されて、近年の予算額では2000億円程度の額が拠出されていると指摘していました(RIETI - 農家戸別所得補償政策)。

 要するに、政府がこの災害補償を行った場合、農政の補助金を2年分のお金がかかりそうなのです。次の衆院選に向けて、与党は災害補償を行って票集めを行う可能性が高いので、来年に国民が食べるお米は例年の3年分の補助金で支えられた品物になるのかもしれません。今後、こうした風水害が日本の農政にどんな影響を与えるのかを、しっかりとウォッチングしなければいけません。 

ここ10年間の水害被害額を一覧で比較してみる

 こうして見ると、本年の風水害の総額は例年と比べても大きな数字になりそうです。被害の総額が気になったので、ここ10年、国土交通省が発表してきた過去の水害被害額(暫定値、全国)を比較してみました。

  • 平成27年(2015年):約3850億円
  • 平成26年(2014年):約2900億円
  • 平成25年(2013年):約4100億円
  • 平成24年(2012年):約3500億円
  • 平成23年(2011年):約7300億円(3.11の津波含む)
  • 平成22年(2010年):約3850億円
  • 平成21年(2009年):約2920億円
  • 平成20年(2008年):約1630億円
  • 平成19年(2007年):約2088億円
  • 平成18年(2006年):約3466億円

 そして、風水害の中で保険金がどれぐらい支払われるのかというと、その金額は日本損害保険協会が支払った保険金のデータに書かれています。時系列になっておらず、見づらいので、台風だけで支払った保険金総額のランキングベスト8をつくり直してみました。 

  1. 1991年/台風19号 →5680億円(全国)
  2. 2004年/台風18号 →3874億円(全国)
  3. 1999年/台風18号 →3147億円(熊本・山県・福岡)
  4. 2015年/台風15号 →1642億円(全国)
  5. 1998年/台風7号  →1599億円(近畿)
  6. 2004年/台風23号 →1380億円(西日本)
  7. 2006年/台風13号  →1320億円(福岡・佐賀・長崎・宮崎)
  8. 2004年/台風16号 →1210億円(全国)

 2011年に静岡や神奈川に来た台風15号で1123億円の支払い(9位)なので、保険金以外の被害も含めたら、大きい台風だと数千億円台の被害額になります(5年前、この台風が来た時、筆者は職場から帰らず、雨がやむまで夜を明かした記憶がありましたが・・・)。

 大型台風が来ると1000億円を超える巨額の保険金支払いが出るので、損保はさぞかし大変なはずです。

その後、農家向けの「収入保険制度」の議論開始

 その後、政府は台風の被害の拡大を問題視し、「収入保険制度」の議論を本格化させました。

 この制度では、年収が過去5年間の平均よりも10%以上、下回った時、その90%が補償するという構想なので、非常に手厚いつくりになっています。

【例:5年間の平均年収が1000万円だった場合】

  • 補償限度は900万円
  • 今年の年収が800万円だった場合、補償限度の差額は100万円
  • 支払い率は90%なので、90万円もらえる。
  • 800万円+90万円=890万円なので、100万円減のダメージが10万円減にまで食い止められる。

 ああ、農業以外の業種から見れば、うらやましくてしかたがない話ですね(筆者ためいき)。どうしてこんな制度が出てきたのかというと、これは天災ではなく、もともとはTPP対策が出所です。

 自民党は「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」等とTPP参加について有権者にわかりにくい説明を続けてきたのですが、競争激化が予想される農家からの受けが悪く、得票数を減らす要因になっていたので、何とかその対策をしなければと考えていました。

 TPPが本格化した場合、日本の中で競争優位がある農業部門は勝ち続けることができるはずですが、価格競争に勝てない部門は減収が予測されているからです。

 例えば、日本の牛肉でしたら、高級牛肉では競争力がありますが、そうでない普通の牛肉だと、オーストラリア等から安い肉が来た時に非常に厳しい戦いになるわけです。こうした減収が予想される農家への対策として、この制度が出てきました。

 筆者は「9割補償はやりすぎでは」と思うのですが、本年は熊本地震に加えて、台風7号、9号、10号、11号、16号と、まるで空襲のように台風が来ているので、農水省は、これを機に収入保険制度の実現を目指したわけです。